筆者註 この稿執筆当時(一九六五年前半)には、記述にもあるようにアイドラー・ドライブ型が製品の大半を占めており、ごく高級なタイプとしてベルト・ドライブが出現しかかっていた、という状況でした。こんにち(一九七七年現在)コンポーネント・ステレオ用として一般化したダイレクト・ドライブ(DD)型は、まだ出現の予想すらありませんでした。したがってDDに関する部分は、新たに書き起こしたものですが、話の脈絡を乱さないために古い記述の訂正を最小限にとどめてあるので、こんにち的でない部分があることはご了承ください。

リム・ドライブ(アイドラー・ドライブ型)
 ターンテーブルをはずしてみると、22図のようなゴムの車(アイドラー idler =から回りする車、怠け者の意味)と、そのそばに細い駆動モーターのシャフト(軸)がみえます。アイドラーで駆動(ドライブ)するので、「アイドラー・ドライブ」といいますが、アイドラーがターンテーブルの周辺(ふち=リム)をドライブするという構造のため、「リム・ドライブ」とも呼びます。
 駆動モーターは一分間に何百回転から何千回転(標準品は約1500回転)という高速で回ります。この回転を、ターンテーブルの内側に、ゴムの車(アイドラー)が伝えるわけですが、33 1/3、あるいは45回転……というそれぞれの回転数を得るために、第23図のように、駆動モーターのシャフトの先に「プーリー」と呼ばれる軸をとりつけて、ターンテーブル内周との回転の比率を変えて、正しい回転数を得るのです。45と33 1/3、あるいはさらに78という、異なった回転数を得るために、プーリーの太さのちがう「段つきプーリー」というものを使います。回転速度切換のツマミを回すと、ゴム車が上下に動いて、回転数に合った太さのプーリーの段を選ぶわけです。もしも手もとにアイドラー・ドライブ式のレコード・プレーヤーがあったら、ターンテーブルをはずして、速度切換のツマミをグルグル回してみると、アイドラーが上下する様子がよくわかると思います。
 このゴムのアイドラーはモーターの回転をターンテーブルに伝達する途中で、自身のやわらかい弾力のおかげでモータの振動を吸収して、回転は伝えるけれど振動はシャットアウトする、といううまい働きをします。
 第22図や23図から想像できるように、正しい回転数は駆動モーターの軸(プーリー)の太さ(外径)と、ターンテーブルの内径の比で得られます。仮に1500回転(毎秒)を33 1/3回転に落とすためには、プーリーの直径とターンテーブルの内径の比が約45対1になる計算です(ゴム車の回転数とは関係ありません。よく考えてみてください)。
 ところが駆動モーター自身が、決して常に正しい回転数で回っているわけではありませんし、また安物のモーターほど、長い時間回していると温度の上昇が激しく、その熱でシャフトが膨張して動きが固くなって回転が遅くなってきたり、同じく、プーリーが熱でふくらんで直径の比率が変わってしまったり……というような原因で、回転数が狂ってしまうことがあります。モーターも時計も同じで、あまり安いものでは機械工作で手を抜いたり、安い材料を使ったりしていますから、安い時計ほど進み遅れが大きいと同じように回転のムラが大きかったり、耐久力の点で劣ったりします。回転数には直接関係のないアイドラー(ゴム車)も、それが正しい円に仕上げられていなかったり、ゴムの質が不適当だったり、回転軸の材料や工作精度が悪かったりすると、円滑な回転をしなくなって、回転ムラの原因を作ります。またよくある事故ですが、ゴムの周囲に油が少しでもついてたりすると、スリップして回転ムラの原因になるのです。

ベルト・ドライブ型
 リム・ドライブ型に対して、「高忠実度」再生装置のためのフォノモーターとして、これから(筆者註d一九六五年当時)だんだんと製品があらわれると思われる「ベルト・ドライブ」型という、別なタイプがあります。
 これは第24図のような原理のもので、駆動モーターの回転をターンテーブルに伝達するために、アイドラーのかわりに、薄いテープ状のベルト(糸の場合もある)を使うものです。回転数は、モーター・シャフトの外径とターンテーブルの外径の比できまります。回転数を切換えるには、段つきプーリーにベルトをかけかえるものや、回転数のちがう二台のモーターを使うものなどがあります。
 フォノモーターに使われている駆動モーターは、たとえば電気洗濯機やミキサーに使われているモーターとくらべると、ずっと小型で、だからあんなにウンウンと唸ったりガーガー音をたてたりはしません。……とはいうものの、同じ親類であるからにはいくら少しであっても、やはり唸ったり振動したりしているのです。この唸りや振動は、私たちの耳にはほとんど聴こえません。ところで、前章までに述べてきたように、ステレオ・レコードの音をきざんだ溝は顕微鏡でのぞかなくてはわからないほどの細い、こまかい溝でした。そんなこまかな溝のうねりを音としてとり出すピックアップの針の先からみれば、私たちの耳には感じないようなわずかな唸りや振動も、じつはものすごい大地震みたいなものであるはずです。ガリバーの大人の国の話を思い出してみてください。
 リム・ドライブ型のフォノモーターの、ゴムのアイドラーは、ただモーターの回転を伝導するだけでなく、ゴムのクッションの作用で、モーターの振動を吸収して、ターンテーブルには伝えないようにと、考えられたものでした。ところが高級な再生装置ほど、素晴らしく敏感なピックアップを使うことになるので、そんな手段ではぜんぜん不十分なのです。そこでベルト・ドライブ型が考えられた、というわけです。
 ベルトは、ゴムの車よりももっと安全に、モーターの唸り(「ゴロ」とか「ランブル」といわれます)を吸収してしまいます。駆動モーターをターンテーブルからうんと離すことができるので、モーターからターンテーブルに直接伝わってゆく振動も遮断されます。そして、さらに振動の影響を受けにくいように、ターンテーブルをうんと重くします。すると、小さな振動にはぜんぜん感じなくなる一方・フライホイル効果(はずみ車の原理)によって回転のムラが非常に少なくなるのです。高級なステレオ再生装置には、これでなくては、というほどになっているのは、これらのいろいろな利点によっているのです。
 24図のような構造では、ベルトも駆動モータも外部露出して、見栄もよくないし場所もとってしまう。そこで25図のようにターンテーブルを二重構造にして、駆動モーターもベルトも、メインターンテーブル(30センチレコードとほぼ同じ直径)の内側にかくしてしまうような構造が考えられました。製品として市販されているものは、ほとんどがこの形式です。

ダイレクト・ドライブ型
 モーターの回転をターンテーブルに伝達するアイドラーやベルトが、ゴムまたはプラスチックという寸法の精度の出しにくい、そして変形や伸縮という不安定な性質のあるために、回転の円滑さを欠く原因となるのだったら、そういう材料をとり除いてしまうことができないだろうか――。それなら、モーターとターンテーブルの軸を直結してしまったらいい。ただし、駆動モーターは、それまでの毎分数百ないし数千回転という高速モーターでなしに、レコードと同じ毎分33 1/3ないし78回転という低速で回るものでなくてはなりません。
 しかし、一九六〇年代の後半に入って急速に発達したサーボ・コントロールの技術をとり入れれば、低速でモーターを回して、それを自動制御すれば回転の正確さという点では、アイドラーやベルト・ドライブとは比較にならないくらい、回転の正確なターンテーブル・システムができるはずだ……。そういう考えで生まれたのがダイレクト・ドライブ(直結駆動)式のフォノモーターでした。一九六九年に、松下電器(テクニクス)が開発したものが世界最初の製品です。ただし、モーターの振動を遮断するゴム車やベルトなど何もないのですから、モーターの振動は、検出不可能なほど小さくおさえなくてはなりません。しかしこの点では、低速回転するおかげで、容易に振動の少ないモーターが作れます。こうして日本の生んだダイレクト・ドライブ型が、世界中から注目を集めるようになりました。
 つまりDDは単に駆動モーターがターンテーブルに直結したことが重要なのでありま世ん(それだけのことならリム・ドライブよりもっと古い時代のフオノモーターの中には、直結型がたくさんありました。しかし振動と雑音と回転の不正確さで、いまからみるとひどく性能の悪いものでした)。モーターを直結したことよりも、モーター(夕ーンテーブル)の回転数を常時監視(検出)していて、回転速度が変わりそうになるとそれを自動的に修整するような、電子的サーボ・コントロール(自動制御)回路を内蔵している、という点に、こんにち的な特長があるといえるのです。
 ことに一九七四年ごろから、速度制御にクォーツロック(水晶発振子の発振の正確さを応用して、回転速度の制御の精度をきわめて高めた方式。時計にも応用されていることはご周知のとおり)が、高級機から次第に普及しはじめて、ターンテーブルの回転速度の正確さは、六〇年代とは比較にならないくらい向上しました。

ストロボスコープ
 ターンテーブルの外周に細い縞目をきざんだものや、プレーヤーののぞき窓から、オレンジ色のネオンランプに照明された細い縞模様がみえます。これをストロボスコープといい、回転を正しく合わせるために使います。ターンテーブル自体にきざんでない場合は、紙や金属板に印刷したストロボスコープが別売されています。これを螢光灯またはネオンランプで照明すると、回転している縞目が止まってみえるのです。白熱電灯や懐中電灯または太陽光では、縞目はみえません。ストロボスコープの縞目が完全に止まってみえれば正規の回転をしていることになりますが、実際にはほんの少しずつ縞目が動くことがあります。ターンテーブルの進行方向に動けば回転が速く、それと逆方向に動けば回転が遅いことを示します。
 33 1/3回転に合わせたとき、縞目が五秒に一本の割合で動けば、速度偏差が0・2パーセントになります。五秒で二本動けば0・4パーセント、同じく四本動けば0・8パーセント、これでさっきの1/16音差になります。実際には五秒で一本以内におさまっているのがふつうでしょう。そして五秒で四本以内の動きなら、一応許容範囲の限度内と思っていいでしょう(なお、以上は50ヘルツ地域の場合の話で、60ヘルツ地域では約四・三秒に一本で0・2パーセントになります)。45回転の場合には、話が少しめんどうになります。そのことを説明するには、ストロボスコープの縞目が、なぜ、静止したり流れたりするのか、その原理を先に説明した方が早道です。
 回転しているストロボスコープの縞目は、白熱電灯や太陽光線(自然光線)ではみえない、といいました。なぜ、螢光灯やネオンランプでなくては、縞目がみえないのでしょうか。答は簡単。螢光灯やネオンランプは、電灯線の50または60ヘルツという周波数によって、毎秒五十または六十回というものすごい速さで点灯と消灯を繰り返しているのです。白熱電灯の場合は、光源であるフィラメントの残光性のために、点滅せずに一定の明るさで点灯したまま(厳密には明るくなったりやや暗くなったりを反復しているのですが)ですし、太陽光にはそういう性質はありません。螢光灯の下で、指を一本出して素早く振ってみましょう(26図)。指のみえない部分(図のAからBにゆく途中の部分)では、螢光灯は消えているのです。点灯したときだけ指がみえるので、縞目状にみえるというわけ。白熱灯や自然光では、こういうみえかたになりません。これで、螢光灯が素早く点滅していることがわかりました。
 ストロボの縞目は黒と白の行列が規則正しく目の前を通過していると同じこと。そこで、白が目の前にきたときだけ、照明が点灯し、黒が目の前にきたときは消灯したとすれば、目の前にいるのはいつも白だというようにみえます。螢光灯(またはネオンランプ)は、電源周波数どおりに毎秒五十(または六十)回の割合で点滅しているのですから、ターンテーブルの回転に合わせて、たとえば50ヘルツで光源を点滅させたとき、33 1/3回転で動くストロボスコープの縞目が、1/50秒にひとつずつ目の前にくるようにきざんでおけば、縞目が停止してみえる、ということになります。したがって、照明が点灯するたびに、縞目の方が少しずつ先に進んでいれば、縞目は進行方向に流れてゆくようにみえる、という理屈です。
 ところで、45回転の場合に話がめんどう、と書いたのは、33 1/3なら50ヘルツで百八十本、60ヘルツに対しは二百十六本、というように縞目がうまく割り切れるのですが、45回転の場合には、60ヘルツは百六十本とよいのですが50ヘルツでは百二十三・三三……本とどうしても割り切れない数になってしまうのです。いいかえれば、50ヘルツ、45回転の場合には、縞目が完全に静止してみえるところは、逆に正しい回転数にはなっていない、という不合理が生じるのです。これを逆算すると、50ヘルツ、45回転では、縞目がターンテーブルの回転と逆方向に少しずつ流れる(遅れる)ようにして、それが毎分十五本(四秒ごとに一本)の割合で流れたときが、正規の45回転、ということになります(60ヘルツなら静止した状態が正規回転数です)。そして、速度の誤差の幅を0・2パーセント以内におさめたいとすれば毎分約プラス十四本から、マイナス一・五本のあいだにおさまっていなくてはなりません。60ヘルツなら毎分七本(約八・五秒に一本)の割合になります。
 ストロボスコープの縞目は、右のように33 1/3、45、そして50ヘルツ、60ヘルツではそれぞれきざみ方が異なるので、ターンテーブルの外周にきざむ場合は、全部で四段になってしまいます。しかし、これには例外もあります。前述のDD・クォーツロック型の場合には、ストロボスコープを照明するネオンランプ自体を、電灯線の電源でなく、サーボ・コントロール用の内蔵電源で照明するため、速度の切換えに応じてランプの点滅の周期の方を切換えることが可能なので、33 1/3、45の区別なしにただ一本の縞目で、どの回転数でも縞目をみることができます。もちろん50ヘルツ、60ヘルツの区別もありません。ただし、この場合には、右に書いた縞目の数え方はぜんぜんあてはまりません。各メーカーによって、ネオンランプの点滅の周波数(周期)と、ストロボスコープの縞目の数を、それぞれまったく任意に決めているので、毎秒何本動いたら速度誤差が何パーセントか、という点は、個々の製品ごとにみなちがうのです。