「虚構世界の狩人」という、この素敵な題名をつけてくださったのは、音楽之友社の佐賀秀夫兄(現月刊「ステレオ」編集長)である。昭和四十六年に、佐賀氏にすすめられて、「ステレオ」誌の臨時増刊号に、わたくしのオーディオへの考えを書かせて頂いた。そのときに、このタイトルがついた。それ以後、このテーマで書き続けて一冊の本にまとめてみてはどうか、という佐賀氏の強いおすすめがあったにもかかわらず、あれから十年、ここに音楽之友社からではなく共同通信社から一冊にまとめて出版していただけることになったが、そんな次第で、この本の成立の事情を、わたくしとしては第一に書いておかなくては、佐賀氏に対して申訳が立たない気持なのである。
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 一冊にまとめる当っては、共同通信社出版局の丸橋孝成氏にはひとかたならぬお世話になった。毎日のようにわたくしの家に通って、引越し直後の未整理の旧い雑誌の山の中から、一冊一冊、入念にチェックして旧作を拾い出すという、気の遠くなるような手間をいとわずに、ここに収めた分量の倍以上のコピーに整理して頂くという下ごしらえがなければ、とうていこの本は成立しなかったことを思うと、何とお礼を申し上げてよいかわからない。
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 一九八〇年を迎えて、オーディオが大きな曲り角にさしかかっているといわれるこんにち、あるいはこれからについて、いまわたくし自身も、何となくひとつの曲り角に立っているという気持になっている。これからのオーディオを考えるには、一旦、自分自身の原点に立ち返ってみる必要があるように思えていた。ちょうどそのとき、この本の構成及び校正の作業を続けるという形で、忘れかけていた原稿を読み返す機会を与えられたことは、わたくし自身にとっても、非常に良い反省の材料になったと感謝している。
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 今回収めて頂いた文章は約十年間に亘って、しかも、さまざまな雑誌に折にふれ書いたものであるだけに、必ずしも内容に一貫性があるとはいえないし、また、雑誌という性格のために時事的な内容もあって、こんにちでは事情のやや変っているような部分もあるが、あえてそれをこんにち的に修整することはしなかった。ただ、多少とも冗長の部分はカットし、いま読み返して文章のあまりに拙い部分についてのみ、多少の加筆訂正をするにとどめた。
昭和五十五年六月