ウェストレックスやノイマンの製品が、わりあい早い時期から日本で知られたのに対して、オルトフォンは、デンマークという国にあったこと、そしてステレオ以前にはほとんど名を知られていなかったせいもあって、その名作TSPUUカートリッジの存在が知られるようになったのは、ずいぶんあとからだった。
SPUは、一九五九年に発表ということになっているから、ステレオディスクの発売された一九五八年の直後だし、おそらく製品自体はもっと早く完成していたはずだ。SPUの名前は、たぶんステレオピックアップの頭文字、程度の理由だろう。
このSPUこそ、こんにちに至るまでのステレオ用MCカートリッジの原形ともいえる名設計であり、シュアーのMMと並び称される名作ということができる。
SPUは、MC型としては構造がとてもシンプルで動作原理が明快であった。また、ウェストレックスやノイマンに比べて、はるかに軽い針圧で動作した。オルトフォンとしては、ステレオLPの音溝の弾性変形の限界といわれる二グラムの針圧を、最初から目標にしていたと思われる。そして実際にSPUは二グラムで見事にステレオをトレースした。
その後、録音からカッティングまでのシステムの進歩によって、音溝のカッティングレベルが上がったため、こんにちのダイナミックレンジの広いレコードを完全にトレースさせるためにはSPUの場合、三グラム以上(三・五、ときには四グラム以上)の針圧を必要とするようになっているが、少なくともステレオ発売当初は、これをしのぐMC型はひとつもなかった。だがそうした実力がほんとうに広く評価されるのは、もっとずっとあと、日本では六〇年代の後半ごろから、ようやくオーディオのかなりのマニアのあいだで、ぼつぼつ知られはじめるようになる。それ以前は、日本でも全部で何人、とか、十何人、という程度の少数の人にしか、使われていなかった。
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モノーラル時代のGEがステレオ時代のシュアーに代わったように、モノーラル時代にMC型で名をはせたアメリカ・フェアチャイルドの座が、オルトフォンにとって代わったわけだが、このフェアチャイルドとオルトフォンとには、偶然とはいいきれない共通点がある。
そのひとつは、カンチレバーの根元の部分にコイルがそのまま結合される構造であること。もうひとつは、コイルの巻き枠が磁性体のいわゆる鉄芯入りコイルであること。
この二点は、いわゆる純粋理論派からみると、コイルの動作がややあいまいであること、そして鉄芯入りであることが理論上好ましくない、などと攻撃の材料になりながらも、時間とともにいつか主流の座を占めているという厳然たる事実が、その優秀性を証明している。
日本で、このオルトフォンSPUを最も早い時期にイミテーションしたのは、日本電気音響株式会社(既にふれたDENON)だったろう。イミテーションというのは言葉がよくないかもしれないが、真相はこうだ。
NHKが、ステレオ放送に備えて、性能が良く信頼できるピックアップの開発というテーマで研究に着手したが、いろいろなテストの結果、オルトフォンが非常に優秀であることがわかった。しかしNHKは半国営的な性格から、放送機材はできるかぎり国産品でまかなう、という方針がある。そこでモノーラル時代に既にフェアチャイルド200シリーズをモディファイして実績のあるT電音Uが、オルトフォンSPUのT改良型Uを研究することになり、NHK技研との共同研究のすえ、いまではよく知られているDL−103を完成させた。細部にはいくつか創意工夫が加えられているが、大すじではSPUを原形としている。しかもこれが、国産の型として最も長い寿命と評価を得ていることは周知のとおり。そして、モノーラル時代にはフェアチャイルド型、ステレオ時代にはオルトフォン型が、それぞれ、NHKの現用カートリッジの主流を占めているという事実もまた、これらの型が基本的に優れているという証明になるだろう。