ステレオ時代の初期に、突然の成功で脚光を浴びたシュアーは、こんにち、MM型(ムービング・マグネット型)の元祖として知られている。が、MM型は、モノーラル時代に既に、シュアー以外のメーカーによって考案されている。それは松下電器のWM−28型であった。この構造のヒントは、さかのぼるとオルトフォンのモノーラル用MC型だろうと思われる。オルトフォンは、垂直に立てた細長い巻枠にコイルを巻いて、磁極の先端に置き、それを軸としてカンチレバーの先端の針先の運動でコイルに回転運動を与える。
松下電器ではそのコイルと磁石の位置を逆転させて、棒状のマグネットを回転させている。このWM−28は、カートリッジばかりでなくアーム、というよりその両者を一体に設計したいわゆるインテグレーテッド型のピックアップ、それも超軽量化のはしりとしても、ユニークで、歴史に残されるべき名作だと思う。
……と脱線してしまったが、さて、シュアーのMMに話は戻る。
モノーラル時代の初期に、アメリカでGEのVR型、ピカリングのMI型、フェアチャイルドのMC型が、いわばT御三家Uの形で評価され、中でもGEのVR型が、使いやすく丈夫で性能が安定しているという点で、最も広く普及したことは、もうたびたび書いたが、ステレオ時代に入ってからは、シュアーがM3Dを成功させたことによって、GEの座にとってかわった。性能の良いわりに価格が手ごろで、GEと同じように針先の差し替えだけで針交換が可能、という扱いやすさが広く好まれた。シュアーはこの成功に勢いを得て、もっと価格の安いM7D、さらに針先部分を改良して音質を一段と向上させた交換針N21Dを発表、M3Dは、針の交換だけでM3/21Dに生まれ代わるようになる。こうした改良もいっそうシュアーの評価を高めた。
もっとあとになってわかったことだが、アメリカのシュアーは、西独のエラックと共同で、このステレオ用MMカートリッジの構造の特許を欧米主要国に提出していた。したがって、シュアー/エラックのパテントを買わないかぎり、ヨーロッパ諸国とアメリカでは、MM型を製造・販売できない。このパテントは、あとになっていろいろの問題を引き起こすが、それは順次ふれてゆく。