スピーカーの許容入力とは、電気器具の消費電力とは違います。許容入力30Wと書いてあるスピーカーは、30Wが必要なのではなく、30Wの出力が連続的に加えられても故障しない、という意味なのです。6項で計算したように、一般的なスピーカーは1Wのパワーでも十分に大きな音で鳴ります。1Wどころではありません。音が小さくなってゆくにつれて、パワーはぐんぐん下がります。パワーの小さいほうの計算をしてみましょうか。もう一度306ページを参照してください。
 音圧80dBのときにスピーカーに加わるパワー=1Wを基準とすると、音圧が10dB下がるにつれてパワーは1/10になるのでしたから、
 音圧=70dB(普通の会話ぐらいの大きさ)0・1W
 〃  60dB(静かな会話)0・01W
 〃  50dB(音楽の強弱)0・001W(1mW)
 〃  40dB(ピアニシモ)0・0001W
 〃  30dB(消え入るような音)0・00001W(10μW)
 ――どうですか。これは数字のトリックでも何でもありません。最大パワーが10Wのアンプでも、300Wのアンプでも、音量を絞ってピアニシモの余韻がいままさに消えるか……というときの出力は、1万分の1から10万分の1Wぐらいの、超ミニミニパワーで動作しているのです。またスピーカーの許容入力の大小にかかわらず、スピーカーから消え入るような弱音が聴こえるとき、スピーカーはそういうミニパワーで鳴っているのです。繰り返して言いますが許容入力とは、故障を生じないでスピーカーに加えられるパワーの限界です。
 しかし許容入力については、もうひとつ補足しておかなくてはなりません。さきに書いたように、許容入力とは「連続的に加えられるパワー」に対しての許容値であって、音楽のフォルティシモのように、瞬間的に加わる大出力に対しては、だいたい許容入力の10倍ぐらいまでが加わっても、スピーカーがこわれるものではない、ということです。30Wの許容入力なら、300Wのアンプに接いでも、音楽を鳴らしているかぎり、スピーカーはこわれるものではありません。
 ただし、アンプのボリュームを上げたまま、入力のプラグを引き抜いたり、針先のゴミ取りをしたり、FMチューナーを突然同調したりテープをスタートさせたり……という乱暴をするのはタブーです。そのようなショックに対しては、アンプのパワーが大きくなるにつれて取り扱いを慎重にしなくてはなりません。しかしアンプのパワーの大小にかかわらず、音楽を鳴らさないときは、ボリュームを必ず絞る、ということを習慣づけたいものです。
 レコードをかけるとき、針先がレコードの溝に完全におさまるまではボリュームを絞っておく。終わって針をあげる以前にボリュームをまず絞る。
 FMチューナーで同調をとるとき、ボリュームを絞りかげんにしておく。テープデッキのスタート、ストップのときも同様。
 このようにマメにボリュームを上げ下げするという習慣をつけることは、オーディオ機器の操作の基本と言えます。
 話がそれてしまいましたが、ハイパワーアンプを鳴らすとき、もうひとつ注意しておいた方が良い大切なことをつけ加えます。それはレコード演奏のときにかぎって、原則としてサブソニック(またはロー)フィルターをONにしておく、ということです。その理由は第3章のその項で説明しましたので、もう一度ご参照ください。
 ともかく、スピーカーの許容入力とアンプの出力という項目は、合わせることを考える必要が全然ありません。いや、合わせるとか合わせないとかいうことを考えるべき項目ではありません。ほとんど無視して結構。
 ただ、前記の注意をするかぎり、スピーカーの許容入力よりも大きな出力のアンプを組み合わせられれば、その方が結果がよろしい。ハイパワーのアンプは概して内容も高度で音質が良く、動作も安定です。ハイパワーが楽々出せるということは、大出力(大音量)のときでもアンプからスピーカーに加わる出力波形の歪が少ないために、スピーカーの故障のおそれがかえって減少するのです。逆に、出力に限界のあるアンプを、その限界以上で鳴らそうとしたとき、出力波形がクリッピングという極端な歪を発生すると、歪成分でスピーカーを破壊するおそれさえあるのです。できるだけ良いアンプを使うように心がけることがいちばんです。