前項のはじめに書いた条件Aの、リスニングルームの広さと出力の関係を考えてみましょう。
 前項で説明した「出力音圧レベル」は、スピーカーの正面1メートルのところで測定した音圧(音の強さ)でした。しかし音源から離れるにつれて音は小さく聴こえるようになるのは日常経験することです。出力音圧レベルでいえば、スピーカーからの距離が倍に開くにつれて、音量(出力音圧レベル)では6dBずつ低下します。
 かりにスピーカーの正面1メートルの点の音圧レベルを90dBとすれば、距離2メートルでは84dB、4メートルでは78dB,8メートルでは72dB……というように、距離の方は2倍ずつ開くにつれて、音圧レベルの方は6dBずつ低下する、という関係で、このことを専門用語では、スピーカーの《逆自乗特性》といいます。
 ただし、この関係は計算の上だけの話。つまり無響室または広い野原のように無限に開けた空間に向かって音を出す、というように、スピーカーから出た音が、一切帰ってこないような状態での仮定であって、実際に私たちが住んでいる部屋では、周囲の壁面からの反射があるため、これほど極端には音量は低下しません。その関係を図5−1に示します(中島平太郎著「ハイファイ・スピーカ」日本放送出版協会から引用)。
 図のカーブAが野外などでの状態で、距離が倍になるにつれて音量が6dBずつ低下するという関係がどこまでも続きます。
 逆にDでは、スピーカー(音源)からうんと離れても、音量の低下はさほどではありません。これは演奏会場のように残響の多い部屋の場合です。それだから演奏会場では、マイクなしでも会場のすみずみまで音がよく届くのです。
 実際に私たちが暮らしている住宅では、カーブBからCのあいだのようになります。Bが和室、Cが洋室、ぐらいに考えてもよいでしょう。つまり和室の方が周囲からの反響が少ないので、音量はよけいに下がります。むろん洋室でも、カーテンを下げたりカーペットを敷きつめたり、いろいろと吸音すればBのカーブに近づきます。
 するとスピーカーから2メートルぐらいのところまでは、無響室や野外と同じように6dB近い音量低下がありますが、4メートルになると低下は3dBにとどまり、さらに離れてゆくにつれて音量の低下する度合いは少なくなることがわかります。まあ普通の部屋では、スピーカーから4メートル以上離れて聴くことは少ないでしょう。6畳、8畳ていどの部屋では、スピーカーから耳までの距離は2メートルからせいぜい3メートルどまりです。
 そうすると、図から考えて、カタログに表示された《出力音圧レベル》に対して、7〜8dBのマイナスを見込んでおけばよかろう、ということになります(もちろんもっと広い部屋では図を参照してください)。
 出力音圧レベルが8dB下がったら、アンプのパワーがどれだけよけいに必要でしょうか。その低下を補うには、8倍弱のパワーが要ります。あとで音量の説明のところでくわしく書きますが、ブックシェルフ型スピーカーの平均的な出力音圧レベルの90dBという値は、大声で話をしているくらいの音量です。それはアンプから1Wのパワーを加えたときですから、逆にいえば、アンプのパワーがたった1Wでも、けっこう大きな音が出せることになります。しかし前記のように実際の部屋の広さを加味すると1Wでは少々不足で、8倍弱、まあ余裕をみて10Wもあれば、演奏会場で聴こえるクラシックの音楽のナマの音量ぐらいは、いちおう鳴らせることになるわけです。
 さて、ここで「クラシックの」と断ったのは、音楽の種類によって、またその内容によって、聴き手の好みによって、アンプのパワーの考え方が大幅に変化するからです。