いよいよ米国でPCM機構によるFM放送が開始されるらしい。従来は生中継でないかぎり、いかにライブ放送だろうと、演奏を一度は業務用録音機(アンペックス、スチューダーなど)に収録したものを再生して、電波にのせるが、この録音のプロセスでいちじるしいダイナミックレンジの制約を受けるのは避けようがなかった。それがPCM録音でなら飛躍的にSN比(つまりダイナミックレンジ)を大きくとることが可能で、日本でも三、四年前だったと記憶するが、FM東京の放送スタジオに巨大なこのPCM録音機構を運び込んで、PCM録音したプログラムソース(ピアノ音楽)をダイレクトに電波にのせたことがあった。それを聴いて、その音域の広さ、静謐度、ダイナミックレンジの秀抜さに、これがFM放送か? と耳を疑ったのを覚えている。いっておくが、この時、私が聴いたのは十万円程度のきわめて一般的なレシーバー(プリメインアンプとチューナーが一緒になったもの)で、スピーカーも英国製ながらブックシェルフ・タイプの安価なものだ。それで従来のFMでは耳にしたこともないグランドピアノの迫真的音色を聴かせてくれたのである。
理論的に、むろん、以前からPCMが従来の録音よりすぐれた音質を引き出せるのはわかっていたし、したがってキー局たる東京から地方局へソースを送るにも、いまではPCMシステムをNHKFMあたりでは採用している。だが情報を放送局から放送局へパルス信号に変えて送る程度で、一般家庭のFM受信機(チューナー)へ送り届けるにはまだまだハードウェアで手数を要するらしい。でもPCMにすれば劃然と音のよくなることだけは確かだ。
現在、街にPCM録音のレコードがでている。聴いてみたら大して音質は変わらないと不満の向きも多いだろうが、これは録音再生まではPCMでやっても肝腎のレコードに音を刻みこむカッティングヘッドやマシンが、まだPCM用に開発されていないためらしい。
アメリカで放送用に使うのはソニーが開発したPCMシステムらしい。四年前のFM東京のは日本コロムビアで開発したシステムだった。何にせよ、放送しようと思えばそれが可能なのを四年前に民放で実験済みのわけだから、日本でも早くこの普及をはかってほしい。オーディオ愛好家を喜ばせてほしい。