市販はされなかったが、さる三月(一九七九年)業務用のテストレコードがでた。一枚一万円だったと記憶するが、このレコードは厚さが通常のレコードの約三倍、それを可能なかぎり水平にプレスしてあり、偏心歪みも皆無であるよう製作されていた。したがってプレーヤーにのせて針をおろしても、トレースにつれてアームがゆれたり、カートリッジヘッドが上下に動くなんてことはまったくなく、停止した状態でレコードにのせたとしか見えない。その点は見事なものだったが、さて特製のこのレコードと、同じ内容をカッティングした市販レコードを聴きくらべたところ、ほとんど変わりがなく、少なくとも一万円と二千数百円との差異は認められなかった。SN比ですぐれているのは確かだったしオシロスコープあたりの波形で測定すれば、明らかに両者の差はでているだろうと思うが、家庭で音楽を楽しむ再生装置にかけたかぎりでは、最高級のそれが装置でも、差を感じとれないのは(だから市販されなかったのだろうが)聴覚と、物理特性の歪みは必ずしも同一でないことを証してくれる。いいかえると、耳に快い音がレコード鑑賞には大切なので、測定上すぐれているいないかは、さほど問題でないことを。
 もう一つ、この業務用テストレコードを聴いて知ったことは、テスト用ピンクノイズで録音された高域(一万数千ヘルツ)は、ヴァイオリンの高域とは再生の仕方が断じて別だということだった。音楽レコードをかけて、ヴァイオリンのユニゾンの最高域が歪んでうまく鳴らぬことがあるが、それはスピーカーやアンプがわるいのではなく、もともとうまく鳴るようにレコードに入ってはいないと知っておくほうがいい。あわててスピーカーを替えたって、元がわるいのだから、よくなる気づかいはないのである。歪んで当然ぐらいに考えたほうがいいだろう。
 なお、この十月に、米国のマークレビンソンが、業務用テスト盤と同じ厚みの偏心歪みのない音楽レコードをだす。一枚七千円。プレス原盤はフランスのエラートのものだそうだが、バカなことをする男である。好事家はまあ買ってみるのもいいだろうが、断言する、鳴らしてみたらエラート盤と変わりっこありやしないはずだ。コンシュマーとは由来そういうものなのだから。