いい音で聴くために、さまざまな難問題をぼくらは克服しなければならないし、克服の努力にオーディオの醍醐味はあるともいえるのだが、近ごろ、どうにも気に入らぬことが一つある。
いいアンプは時間を食うことだ。
大パワーの出力アンプがベラボウに電力を食うことはわかっているし、省エネルギーをうるさくいわれるまでは、経済的消費にさえ目をつぶれば、美音の魅力の前ではさほど気にやむことではなかった。なにぶん、百万円もするアンプを購入できるのは経済的に余裕のある連中に限られるし、そういう連中は消費電力――その家計におよぼす影響――など気にする必要もない生活人だろうから。
しかし、時間の問題は別である。たとえば米国製の或る高級アンプ(市価九十万円)は、その真価を発揮させるには最低四時間は電気を入れっぱなしにしておかねばならない。そうでないと、そのアンプを購入し、鳴らす意味がない。スイッチをONにして一時間後の音色では三十万円くらいの値打ちの音しかしないが、五時間後は、九十万円は惜しくない、と思わせる美音で鳴るからである。
でもレコードを聴くのに五時間前から準備が必要とは、考えればシンドイ話だ。月に一度か二度ならいいが、毎日でも聴きたいのが音楽なので、この多忙な日常に、いったい毎日五時間も部屋にじっとしていることなど、だれに可能か? スイッチを入れたら直ぐ、いつでも優秀な音を聴かせてくれてこそ、高級アンプではないか、と私は思う。
こんど国産の或るメーカーが五十万円スレスレのプリアンプを売り出した。金に糸目をつけぬ贅沢な構造で、それだけの音色は確かにもっているのだが、これを十全に鳴らすには何と、電気を入れて、五、六時間は待たねばならない。スイッチ・オンですぐ鳴らしたのでは何のためのこのアンプか、という次第だ。だが、こんな忙しい時代に六時間も待っていられようか。メーカー(あるいはオーディオ愛好家)は、どこかで大きな間違いをおかしているのではないか?