テレビで十五秒や三十秒スポットのコマーシャル料がどれくらいかかるものか、時間帯や、テレビ局によっても多少の違いはあるだろうし、正確な放映料を私は知らぬが、まず一回数十万円はするものらしい。帯番組に挿入するなら、さらに値段は張ると思われるが、季節柄もあって、近ごろ、やたらとゴキブリ退治のコマーシャルが目につく。相応な広告料を業者は支払っているわけだろうが、それで採算が成り立つというのは、つまり需要があるからに違いない。ということは、ゴキブリの発生する〈ウサギ小屋〉に日本人の大半は住んでいるわけになる。
 サミットでの外人のT日本観察Uをまつまでもなく、ゴキブリ退治のコマーシャルの多さが端的にこの国の家屋事情を語っているわけだが、そんな国で、ステレオ・コンポーネントやプレーヤー、FMラジオ、交換針のコマーシャルもしばしば見られるというのは考えれば奇妙な話だ。FMの場合は別にして、オーディオの音色は、スピーカーやアンプではなく住んでいる部屋の状況が、決定づけると私は考えている。
 いかほど高価で能率のいい装置をそろえたところで、しょせん〈ウサギ小屋〉。クラシカルな音楽の生まれた王侯の豪華なサロン、宮殿、教会の雰囲気やそのトーンカラーなど、とうてい再現できるわけがない。にもかかわらず〈ウサギ小屋〉の住人相手にTいい音Uを売り物のコマーシャルが成り立つのだ。どこか間違っていやしないか。
 アメリカに二週間いて、テレビを見つづけた。その大半の番組の低俗なこと、コマーシャルの多過ぎるのに呆れ果てたが、でもオーディオのコマーシャルには一度もお目にかからなかった。ヨーロッパでもそうだ。最近のデンマークは知らないが、西ドイツ、英国、フランス、スイスでオーディオのコマーシャルに出合ったことがない。日本のオーディオ製品は、いまや世界的だというが、コマーシャルベースでは採算が合わず〈ウサギ小屋〉の住人相手にのみ成り立つとはどういうことだ。吾人はこれを喜ぶべきか、悲しむべきなのか。