いまロサンゼルスに来ている。こちらにもかなり重症の音キチはいて、メーカーもそういう手合い相手に小規模だが、超ハイファイ用アンプ(必ずしも大出力ならず)をつぎつぎ売り出し、あるいは注文で製作しているという情報は、東京でも聞いていたが、なるほどビバリーヒルの一マニア宅を訪ねて、本当なのを知った。ビバリーヒルに暮らすほどだから、まあブルジョアなのは想像がついたが、そのリスニングルームに通されると、あるわあるわ、音キチでは世界の情報に相当くわしいつもりの私でさえ見たことも聞いたこともないアンプやカートリッジが棚にずらり。アンプの或るものは、マサチューセッツから打ち上げたアポロ何号とやらに使われたのと同じトランジスターで組んであるとか、あるカートリッジは構造段階からオーダーしたので一箇三千ドルかかったとか。それが誇張でないのは豪華な家具も見ても見当がつく。上には上の大バカがいるものだと口には出さねど思ったことだった。肝腎の鳴っている音楽は聴けたものじゃなかったからである。でも他人の悪口をいうのは遠慮しよう。ただ、彼を訪問して参考になったのは、アンプ内のコンデンサーが経年による容量変化をきたし、音の劣化する事実を端的に見せられたことである。カリフォルニアは日本と違い、ほとんど雨は降らない。したがって湿気によるトラブルはないのだが、それでも、何年も使いこむうち、容量が変わり、その分、確実に音質はわるくなっていく。感心したのは、彼がわざわざ日本へ発送された米国製の有名なアンプ(それも昨今T幻のアンプUといわれている)で、永年、日本で使用されたものを二台、取り寄せ、一台は旧のまま、一台はコンデンサーを全部新品に取り替えたのを比較試聴させてくれた。聴きくらべてあまりな音の違いに私は絶句したのだ。とても同一メーカーのアンプとは思えなかった 。
 私は忠告する。T幻のアンプUをいまでも使っている愛好家は日本にかなりいると思うが、それは鳴っているだけで、工場を出荷当時の音質とはずいぶん劣下したものと考えるべきであり、ぜひコンデンサーを新品と取り替えてごらんなさいと。忘れていたそれこそ名アンプの美音が、甦るでしょう、と。