オーディオ愛好家にとって、FMを聴くのはこれを同時録音することとシノニム(同義語)だが、こうしたエアチェックをつづけていると、次第に録音したい魅力のある番組は少なくなる。音質がいいといっても、しょせんはFMゆえ、高域に音の冴えのない不満が、魅力を失わせるので、生中継か、よほど好きな曲目を好きなソリストが演じるライブものでないかぎり、FMは聴かなくなったという人が多い。
そういう愛好家(クラシック・ファン)に推奨したいものにTOA音楽工房のプリンテッドテープがある。プリントされたといっても、市販の4トラック・2チャンネルやカセットのようではなく、マスターテープから直接プリントしたもので、2トラ倍速(38センチ)の10号リールのかかるデッキでないと再生できないが、なんといってもマスターテープそのものともいうべき新鮮な音質は、FMはおろかレコードでは絶対味わえぬもので、家庭で聴く音の最高は、レコード会社からこっそりマスターテープを借りてきて、わが家で鳴らす音だと私などは考えているほどだ。でもそんなことはレコード会社がさせてくれない。そこでティアックあたりが以前、「これがマスターテープだ」と喧伝して売り出したテープがあったが、残念ながら演奏が二流だったり、デッキ屋さんの録音だから肝腎のハーモニーがうまくとれず、ゲインなどやたら大きすぎて、まともな鑑賞にたえるものではなかった。
その点、TOAのテープは、ドレスデン国立管弦楽団やベルリン放送交響楽団、あるいはベルリン弦楽四重奏団など、指揮者もオトマール・スィトナーをはじめまず一流で、何よりもレコードにカッティングするマスターをプリントしたものだから、その音楽性は音質の新鮮さと合わせ間然するところがない。一本二万円(一九七九年六月現在)はレコードにくらべて高いようだが、使用テープは3Mおよびアンペックスで、曲目の録音データは言うに及ばず、プリントの日付、そのナンバーまで明記してある。曲目はモーツァルト「ト短調交響曲」、ベートーヴェン「運命」「ハープ」、ヘンデル「水上の音楽」その他。2トラック倍速のデッキを所持する人はいちど聴いてごらんなさい。