カセットでなく、オープンデッキでエアチェックをはじめて私は二十年になる。つまりFM実験放送時代から、ライブがもつ、レコードでは味わえぬ音の鮮度――余計なミキシングやカッティングの音いじりをしない――ナイーブなそのクォリティを楽しんできた。ことわっておくが、実験放送当時は、スタジオ録音でもその収録テープを直にオンエアしたので、時にはスタジオからの生中継もあり、モノラルながら現在のライブものより、はるかに音は新鮮だった。それを2トラック・2チャンネル(19センチ)で収録した。
 FMが一般化されるようになって、4トラック・オープンデッキが普及しはじめ、人並みに私もプリンテッドテープを買ってステレオを楽しむかたわら、FMステレオ放送を収録・再生して喜んだ。いまと違い、当時ホームユースの市販デッキはみな4トラック・19センチで、使用テープもスコッチ一一〇番の標準ものにバイアスは統一されていたかと思う。それでも、拙宅ではコンソールの大型2トラックデッキを購入し、倍速でエアチェックしたが、このころのはいま聴いても音は秀逸だ。イコライザーアンプ、チューナーともすべて管球式で。
 現在、おびただしいチューナーやデッキ、アンプが市販され、いま話題のメタルテープなども加わって、その音質論はまさに侃々諤々の有様だが、ここに一つ意味深い実例がある。さる五月三十日
(一九七九年)、NHKFMの「クラシックアワー」で、エッシェンバッハが自らピアノを弾いて指揮したモーツァルトの協奏曲がオンエアされたが、このときの使用ピアノはヤマハだった。外人ソリストで日本での公開演奏に、ヤマハを使用したのはリヒテルの例を除いてほかに私は知らぬから、エッシェンバッハはスタインウェイを弾いていると思い込んでいた。それにしては音が変なので、放送局に問い合わせヤマハとわかった次第であるが、でもこのピアノの音の違いが、メタルテープでは残念ながら出てこない。低域に、コンソールデッキで収録した分との差があるように思う。私の経験で言うのが、真に音質を重視するなら、メタルテープにまだ手を出さぬほうがいいだろう。