新聞の経済欄を読んだ読者は知っていると思うが、松下電器産業が従来の磁気テープにくらべ記録密度の大幅に向上したマイクロカセット用の蒸着テープを開発、商品化に成功した。従来のテープは周知のようにプラスチックフィルムに磁性材を塗ってあるが、これは磁性材(コバルト系金属)を真空状態で加熱蒸発させてフィルムに張り付けてあるため磁性率が高く、表層の磁性膜もこれまでの三ミクロンから〇・二ミクロンと薄くなった。それだけヘッドへの密着度も高くなる道理だから音はきれいになり、記録時間も最大往復三時間(従来のは二時間)。かつ昨今話題のクロームテープのように消去が困難なわけではないので、いままでのデッキで十分使用に耐える。
 私は、音にはいたって欲の深い男だから八月
(一九七九年)から販売されるこのテープを密かに入手、さっそくエアチェックに使ってみた。結果はアキマヘン。あくまでもマイクロカセット用なので英会話の自習や会議の記録用には声もクリアにとれるだろうが、しょせんオーディオのため開発されたものではないと痛感した。それでも、こちらのマイクロカセットに欠陥があるかとも反省して、念のため松下電器の音響研究所長に電話で確かめたら、「そら無茶です。あれは蒸着テープなので、HiFiには向きません」
 じつは経済紙面の《きれいな音、往復三時間も》という見出しに私は煽られたのだが、読者のなかに私同様、早とちりする人もあるかと思い言っておく――「あれは、HiFiには向きません」
 もっともオーディオ部品の開発は日進月歩、まことにめざましいものがある当節だから、いずれは磁性率の高い、したがって音の明確度の向上したこの蒸着テープがオーディオ向けに使用可能な日が案外はやくくるかも知れない。そうなればオープンデッキ並みのクォリティを保持したカセット時代がいよいよやってくるだろう。でもいまは、最良の音質でエアチェックをするためには質のいいオープンデッキがまだ必要だ。いいチューナーといいデッキで収録したライブものは、時としてレコードの音色にまさるのだから。