先日(一九七九年三月二十日)FMを聴いて、久しぶりに感動した。NHKFMの「演奏・昔と今」で、ショパンの「バラード第一番ト短調」をミケランジェリとコルトーで、次いでベートーヴェンの「月光」をパデレフスキイと若き日のケンプ、それにゼルキンで聴かせてくれたのだが、新旧を比較すると、いかに往年のピアニストたちは各自にすごい芸格をもつ演奏家だったかがわかり、レコードのありがたさを再認識した。
パデレフスキイは私も少年時代に聴いて知っているつもりだが、面皰盛りの少年がパデレフスキイの弾くベートーヴェンの大きさなど、まるでわかっちゃあいなかったと痛感した。レコードのおかげで、それを五十代後半の現在、知覚することができたし、若き日のケンプがどんな演奏家だったか、この日のFMで初めて知ることができた。
ミケランジェリも、たしかに音色は華麗だが、往年のコルトーのと聴きくらべると、まるでジャリタレである。ミケランジェリの音の美しさにひかれてきた私は、あまりなコルトーとの芸術の違いに愕然とした。だから音楽演奏はこわい。こういう比較鑑賞は一般の人には、レコード入手の困難さもあってなかなかできない。演奏に限らず、芸術品はすべて並べて比較されると恐ろしいほどその差が判然とするのだから、単に昔の演奏家がどんな弾き方をしたかを知る以上の意義もある。今後もこういう番組はつづけてほしい。民放に多くを望むのは無理だろうから、こうした番組はNHKに放送の義務があろうかとも思う。
もう一つ、じつは、この放送は、初め娘の部屋のFMで聴いていたが、コルトーの素晴らしさに驚いて、自分の装置で聴き直してみたところ、娘のお粗末なFM受信機のほうがコルトーの素晴らしさを如実に感じとれた。オーディオサウンドというものは、摩訶不思議なものである。