NHKがFM本放送を開始して満十年になる。私がT実験放送UでFMを聴いたのは昭和三十九年からだから、十五年になるわけだが、こんど(一九七九年二月二十八日)、本放送十周年を記念して「N響ステレオ録音いまむかし」がライブでオンエアされる。N響の演奏で、古くはローゼンシュトック、ロイブナー、シュヒター、ジャン・フルネ、いまは亡きアンセルメなど来日した名指揮者のタクトをしのぶ貴重なテープ。クラシックファンはぜひ聴いてほしい。ただし選曲はオペラの序曲や前奏曲といった軽いものが多いが、これが時間の制約と、録音テープの保存状態によるもので、そのへんの苦心談も裏話としてNHKのオーディオ技師が語るという。何様、ローゼンシュトック時代はステレオではなかったのだから、そういう録音マイクもなく、ステレオ感を出すための楽器配置をどうするか、ワンポイント・マイクセッティングはどうあるべきかといった当事者の苦心も語られるから、自分で生録しているマニアには大いに参考になるだろう。
ただし、あくまでも音楽を鑑賞したい本格派には、やはり選曲が物足りないだろう。そういう人には器楽曲のいいものが今週はある。まず二十六日NHKFMの「音楽のすべて」でバッハの「シャコンヌ」。ヴァイオリン独奏は女流のジョコンダ・デ・ヴィトー。「シャコンヌ」は屈指の難曲で、これが立派に弾ける人は現在もそう多くないが、ヴィトーはどうか、一聴に価する。つづいてジネット・ヌヴーのショーソン「ポエーム」。ヌヴーは若くして死んだ天才女流ヴァイオリニストだった。私などヌヴー以後、ヌヴーを超えた女流を知らぬくらいだが、もう一つ、この日夜八時五分「海外の音楽」でズーカーマンのフォーレの「ヴァイオリン・ソナタ第一番」がある。フォーレは極言すれば「夜想曲」と「レクイエム」とこのソナタを聴けば足りる。さらに翌二十七日の「海外の音楽」でフランクの「ヴァイオリン・ソナタ」。演奏はコーガンなのでロシア人に果たしてフランクの典雅でストイックなエスプリが弾きだせるかどうか気がかりだが。
なお民放では二月に来日したリヒターのオルガン独奏によるバッハ「トッカータとフーガニ短調」も聴きものだ(三月一日夜)。収録が東京カテドラルゆえ、反響が強すぎないかと心配だが。