オーディオとは直接なんの関係もないのだが、“ヒゲ”のついたレコードというのがある。中古盤だと、このヒゲの有る無しで価格に月とスッポンの差を生じる。
 ふつう、レコードをかけるとき、ターンテーブルの中心棒(突起部)へレコードセンターの孔を嵌め込むのだが、漫然とレコードをあてがって、あっちこっち盤をずらせてターンテーブルへおさめる人がいる。そうするとセンター孔の周辺にターンテーブルの中心の先端が当たった跡がのこる。光線をあててみればすぐわかるが、糸くずが付着したような具合に光る。これが�Tヒゲ�Uである。
 戦前のレコード愛好家は、中古レコード店で出物はないかと物色するとき、いちばんに確認したのがこのヒゲだった。どれほど盤面は無疵できれいでも、ヒゲをとどめて平気でいるようなレコードの扱い方(または聴き方)をするものが針の磨滅や、その重さやトレーシングの円滑さに十全の注意をはらってきたとは思えず、つまり、きわめてぞんざいな音楽の聴き方をしてきたに違いないので、そんな者が所持したレコードはいいわけはない、ということになり、おのずと中古の値段まで安くなった。
 ステレオ時代、FMエアチェックで音楽を楽しむ世代の多い今日、中古レコードを買う人など余りいないだろうし、当然ヒゲを気にする者もいないだろう。だが断言する。トレーシングの真に優秀なプレーヤーとそうでないのとでは、同じレコードでも鳴る音が違う。プレーヤーも音質を大きく左右することをオーディオファイルなら知っている。したがってセンター孔にヒゲのあるようなレコードを持つ手合いは、コレクションが何百枚あろうと、どんな高価な装置で聴いていようとまず碌な音はだしちゃいまい。
 私は三百枚余り大切なレコードを持っているが、一枚だってヒゲのついたものはない。私のこれは誇りだ。諸君もそういうレコード所持者であってほしい。