どんな高級アンプやスピーカーで構成されるハイファイ装置でも、日によっていい音をだす日と、そうでないときがあるのをベテランは知っている。だいたいアンプに電気さえ入れれば、いつだってオーディオは鳴るものだ、と思っているうちは初心者だろう。たしかに電源スイッチを入れるとアンプ(あるいはチューナーやカセットデッキ)は機能し、スピーカーから音はでるが、それは単に鳴っているだけで、アンプのもつ能力をフルに発揮している音とは必ずしも限らない。いまでは、アンプのほとんどはトランジスターだから、むかしのように真空管が温まるのをまつ必要はないが、それでも、ある米国製の最高級アンプは、そのアンプ特有の美音をだしてくれるまでに電源を入れてから、約四十五分間またねばならないのがオーディオ仲間の常識だ。(アンプ仕様書にこんなことは一行も書かれていない。)たぶん、これはアンプ全体か部品のどこかに一定温度まで温まる必要が実はあるからだろうし、こういう音と温度との関係はカートリッジにおいて、さらに甚大なことを北海道あたりのオーディオファイルなら知っていよう。
スピーカーとなると、いっそう問題は厄介となる。とくに湿気の多いわが国では、日によって、リスニングルームの湿度がちがい、当然、スピーカーのコーン紙に微妙なこれは影響を与えるから、湿度による室内の残響の変化とも関連して、同じレコードの同一部分が前日ほどうまく鳴ってくれぬといった事態もしばしば生じることになる。白状すると、装置がグレードアップされればされるほど、こうした日によって音に変化の生じる度合いは大となり、いいコンポを持っているから彼はいつもいい音で聴いているとは、じつは限らない。うまく鳴らぬ日のほうが多いかも知れず、このへんが音キチの泣きどころである。
となると、いい装置を持つのは他人が考えるほど幸せではないと知っておくことだ。世界でも最高級のアンプをそろえている或る男は、朝起きて雨だと絶対レコードを聴く気になれぬというし、別のマニアは、毎日アンプやスピーカーのご機嫌をとりながら聴くのだという。大金を投じた自分の機械の機嫌をとらねばならぬとは、語るも涙ではないか。