サイズの最近のブログ記事

スピーカーのネットワークについて、すこし具体的なことを書いた。
その前は、トランスについて書いている。

ひとつことわっておきたいのは、この項のタイトルだ。
「サイズ考」であって、「トランス考」でもないし「ネットワーク考」でもない。

「トランス考」、「ネットワーク考」というタイトルをつけていたら、
まったく違う書き方をすることになるだろう。

この項では、あくまでもオーディオにおける「サイズ」について考えていくと、
その考えを少しずつ徹底させていくと、トランスやネットワークに関して、
技術的な捉えかたとは違う視点で捉えることができるということを感じとってもらえれば、
そしてその面白さを感じてもらえれば、それでいいと思っている。

サイズは、いちばんわかりやすい要素である反面、見えない「サイズ」、見えにくい「サイズ」が、
オーディオにいくつも存在しているからだ。

このブログでは、写真も図版もいっさい使っていない。
以前も書いたが、使ったほうが書くほうとしても楽である。
それでもあえていっさい使わないのは、「ことば」から、ということを私なりに重視しているからだ。

言葉遣いにおいて、まだまだ未熟なところもあり、誤解を招くこともあるだろうが、
それでも「ことば」から考えていくことの面白さを感じとってほしい、と思っているから、
これから先も写真、図版を使うつもりは、まったくない。
mr.Jさんのふたつめのコメントにあるように、
スピーカーシステムの音と一体感のようなものに関しては、アース線を徹底的に分離しないほうが、
いい結果が得られる可能性も、たしかにある。

これはバイワイアリング対応のスピーカーシステムでも、同じことを感じておられる方もいるはず。

スピーカーケーブルを分離することで、音のスムーズさや解像力は増すものの、
個々のユニットから出てくる音の融け合いが希薄になるように感じ、
あえてシングルワイアリングで使われる方を知っている。

こういうとき、この考で以前書いたが、プラス側は1本にして、アース側だけを分離する、という手もある。
つまりプラス側はシングルワイアリング、アース側のみバイワイアリングという配線方法である。

この手法は、そのままアース線を分離したネットワークにも使える。
もちろんスピーカー・エンクロージュア内に納められているときに限るが。

プラス側が1本で、アース側は多数のケーブルが出ているのは、一見アンバランスに思われるだろうが、
試してみて、求めている結果がよければ、それでいいのではないだろうか。

徹底して分離化を行なって、すこし行き過ぎたと感じたら、すこし戻せばいい。すべて戻すことはない。
どこを、どのくらい戻すのかは、その人の次第ではあるけれど。

そして、しばらくその状態で鳴らして、他のところのチューニングがうまくいったら、
また徹底分離の音を聴いてみたら、いいと思う。そうやって音を詰めていく。

最後に、mr.Jさんは、かなりの経験を積まれている方だと思う。
まずパワーアンプのどこに電源トランスが配置されているかによっても、
ネットワークへの影響は変化する。

パワーアンプとネットワークを接近させるということは、
パワーアンプのリアパネル側にネットワークを置くのが通常である。

この場合、フロントパネル側に電源トランスが配置されているアンプであれば、
リアパネル側にあるものよりは影響は少ないし、
電源トランスのコアの形状によって漏洩磁束は大きく変化する。
それにコアの磁束密度が、どの程度かにもよるし、磁気シールドを施してあるかどうかによっても異ってくる。

パワーアンプに接近させることで、その影響下にはいることは事実だが、
必ずしも大きな影響を受けるとは限らないのも、また事実だ。

それからコメントにあるように、エンクロージュア内部の振動と、外部に取り出したときとでは、
振動の影響の受けかたは、ずいぶん違ってくる。
あとエンクロージュア内部では、スピーカーユニットの磁気回路が外磁型で、防磁対策を施してなければ、
その漏洩磁束の影響下にあるわけだ。しかもネットワークを使うスピーカーシステムは、
マルチウェイであるから、スピーカーユニットの数はひとつではない。

もっともスピーカーユニットからの磁束と、パワーアンプの電源トランスからの磁束とでは、性質が違うから、
音への影響は同じわけではないことも事実である。

アース線を徹底的に分離した場合、エンクロージュア内部に収めたほうがいいのか、
取り出してパワーアンプの近くに置いたほうがいいのかは、
やや無責任な言い方になってしまうが、諸々の状況によって変化するため、
実際に音を聴いて判断するしかない。

どこに置こうと、どこに納めようと、なにがしかの影響下に入ることは避けられない、ということを忘れないでほしい。

とはいうものの、私はパワーアンプの近くに置くほうをとるけれど。
サイズ考(その64)に、mr.Jさま、興味深いコメントをいただいた。
返事が長くなるのと思い、コメント欄ではなく、こちらに書くことにした。

ネットワークをスピーカー・エンクロージュアからとりはずし、パワーアンプの間近に置くと、
電源トランスという「金属の塊」が近づくことになる。
たいていの場合、トランスは鉄と銅のかたまりだから、その金属の塊は磁性体の塊でもある。

コイル(この場合、空芯型)を取りつけるさいに、安易にコイルの上下を板で挟み込み、
その2枚の板の中心、(つまりコイルの中心)に金属ビスを通して、
メインの基盤(板)に固定すると、金属ビスが磁性体であれば、コイルの値が増える。

つまり鉄芯入りのコイルと同じことになるからだ。
ならば非磁性体の金属ビスならば問題が無いかというと、
そうでもなく、今度は反対にコイルのインダクタンス値が小さくなる。

コイルは、そのくらい周囲の影響を受けやすく、同時にまわりに影響も与えている。
だから複数のコイルがある場合、通常、コイルの向きは90度変えて配置するのが、まず基本である。

そういう性質をもつコイルだけに、コメントにもあるように、パワーアンプからの漏洩磁束の影響を受けやすい。

ただ、これもケース・バイ・ケースでもある。
この項の(その37)で、スピーカーシステムのネットワークのアース線を分離していくことを書いた。

これを実際にやるとなるとアース線の本数が一挙に増えるため、それぞれのアース線がアンテナとなり、
強電界地区の多い都会では、逆にデメリットに変っていくかもしれないと考える人もいるだろう。

それにいままで使ってきたスピーカーケーブルをそのまま使うことができないという面もある。

だが、もう少し考えてみてほしいことがある。それはネットワークをどこかに置くのか、である。

ネットワークをスピーカーシステムのエンクロージュア内に収めたままでは、
アース線の多本数化によるデメリットが生じる可能性も否定できない。
だが、パワーアンプの出力端子のすぐそばにネットワークを設置すれば、
ネットワークから、それぞれのユニットに伸びていくスピーカーケーブルは、
従来の方法と同じ、プラス・マイナスあわせて2本である。

2ウェイ構成ならば2組の、3ウェイならば3組のスピーカーケーブルがあればいい。
つまり気に入ったスピーカーケーブルがあれば、それをそのまま利用できる。

そしてアンテナになるかもしれないという不安も、アース線の配線を短くすることで回避できる。

すべてを短く、小さくすることは不可能だけに、どこを優先していくのかの見極めが大事なことはいうまでもない。
トランスをむやみやたらに使え、とすすめているわけではない。
質の高いトランス(残念ながら数は少ない)を、適切な使い方でもちいれば、
信号ループの複雑化をある程度防ぐことが可能である、ということを第一に伝えたい。

アンプ(電子回路)内部にはいくつもループがあり、重なりあってもいる。
それらのループをいかにうまく整理するかが重要なポイントであるし、
配線を行なううえで、もっとも注意が必要なところではあるが、実際の部品にはそれぞれ大きさがあって、
しかも大きいものもあれば小さいものもある。

回路図上ではコンデンサーは、容量に関係なく同じ大きさで描かれるが、
実際のコンデンサーは、位相補正用の数pFのコンデンサーと、
電源部の10000μFをこえる電界コンデンサーでは、そのサイズ比はかなりのものだ。

つまりアンプの実装技術において、すべての信号ループを小さく配線することは無理である。
だから重要な箇所のループを優先的に小さく処理していくことが求められる。

どこを重要な箇所と捉えるのかは、それぞれの技術者によって微妙な異るかもしれぬ。
ここにも、技術者の力量がはっきりと現れる。
ならばパワーアンプの入力にトランスをいれて、トランス出し・トランス受けとする方法がある。

ただこの場合でも、パワーアンプの入力にいれたトランスの2次側をどう処理するかが問題になる。

600Ω:600Ω(1対1)のトランスを使うのであれば、インピーダンス整合の問題に関しては、
同じことのくり返しになるし、2次側のインピーダンスが10kΩ程度のものを使うという手もあるが、
これですっきり解決というわけではない。

それにトランス・トランスと重なると、互いの巻線同士の共振を抑えるために、
レベルコントロール機能が他にあっても、数dB程度のアッテネーターを挿入してダンプする必要がある。

そんなふうに考えていくと、結局、トランスを受けるには、反転アンプが、
いまのところ、もっとも望ましい方法である。

さらに反転アンプの入力抵抗を取り払い、
いわゆるI/V変換回路にして、トランスの600Ω出力を受けるという手もある。

トランスを、I/V変換アンプで受けている市販のアンプは存在しないと思っていたが、
去年入手したスチューダーの回路図のいくつかを見ていっていたら、
40Wという、ラックマウント型のパワーアンプの入力部が、そうなっていたのに気がついた。
さすがスチューダー、である。
トランスをかませたコントロールアンプの出力を、どう受けるのがいいのか。

一般的にライントランスの2次側のインピーダンスは600Ω。

アンバランスのローインピーダンス出力、ハイインピーダンス入力とは異り、
トランス出力の信号はインピーダンス整合は、とうぜんのルールとなっている。

600Ωであれば、パワーアンプの入力インピーダンスを600Ωに下げるために、
入力に600Ωよりもすこし高めの抵抗を並列に取りつければ、ほぼ600Ωとなる。

ただパワーアンプの入力インピーダンスが10kΩ(この場合も、入力に並列に10kΩの抵抗がとりつけてある)だとして、
合成値が600Ωになるには、640Ωの抵抗が必要になる。

640Ωの抵抗と10kΩの抵抗は、約15:1。つまりラインケーブルを流れてきた電流の大半は、
640Ωの抵抗を通ることになる。
10kΩの抵抗を通る電流は、その1/15と少ない。

パワーアンプの入力に必要なのは電圧であって、電力ではないから、
電流の多くが、640Ωの抵抗を通ったところで問題はない、といえば、理屈の上では、実際にそうだ。

とはいえ、精神衛生上はなんとなくすっきりしないし、
単に抵抗でターミネイトしただけでは、音もかんばしくないことが多い。
ループ的に独立した2系統の出力を得るのに、いまのところ最適なのはトランス出力だろう。
2次側の巻線が2つ以上あるトランスを使えば、ループの問題はほとんど解決する。

そうなるとトランスを積極的に利用したくなる。
つまりサーロジックのサブウーファーの導入が、
トランスの負性インピーダンス駆動のことを思い出すきっかけとなった。

トランスの負性インピーダンス駆動の実験の前に、トランスの2次側の巻線の接続を変えて、
2系統の出力が得られるようにしてみる予定だ。

トランスによって、サーロジックのサブウーファーの信号系と、
メインスピーカーのパワーアンプまでの信号系が、ループ的には独立する。

実際にストレーキャパシティの存在によって、トランスの、ふたつの2次側巻線は、
高周波においてはループが形成されてしまい、完全な独立とはいえない。
けれど、トランスなしの状態で、コントロールアンプの出力を並列に取り出すよりも、
ずっとすっきりし、ループのサイズも小さくなる。
まず考えたのは、ラインアンプを2組設けることである。そうすれば出力端子は、
それぞれ独立して互いに影響し合うことを極力抑えられる。

とはいうものの、JC2やテァドラからフォノアンプのモジュールやカードを外した時の音を聴いた経験からすると、
アンプの数を安易に増やしたくはない。

フォノイコライザーアンプは、ラインアンプに対して直列に存在する。
もう1組のラインアンプは並列の関係にある。
だからフォノイコライザーアンプの存在がライン入力の音に及ぼす影響と、
ラインアンプがもう1組増えることによる音の影響は、必ずしも同じ変化で、同程度の変化ではないだろうが、
電源を完全に分離できない以上は、電源を介してのループの問題は依然残るし、
ノイズの干渉などについて考えると、2組のラインアンプを用意することは、賢明な手法とは思えない。

次に考えたのはラインアンプの出力段を複数設けることである。
この場合、ラインアンプは1組で、
トランジスターならば、エミッターフォロワーなりコレクターフォロワーの出力段を、
2組の出力が必要であればラインアンプの終段に2組設ける。
NFBはそれぞれの出力からかける。

2組のラインアンプを用意するよりは多少スマートではあるが、
アンプに電源が必要である以上、やはりループの問題を確実に解決できるわけではない。
出力を2系統もつコントロールアンプはいくつかあるが、その大半は2組の出力端子を単に並列接続しているだけで、
2系統のオーディオ機器が並列に接続される場合のループについて配慮されているわけではない。

出力端子ごとにラインアンプを専用にそなえている、
つまり2組(4チャンネル分)のラインアンプをもつコントロールアンプがあったとしても、
コントロールアンプ、パワーアンプ間の信号ループの重なりがすこし減りはするものの、
電源部まで含めたループは、いまだ複雑なままである。

それにモジュール形式のコントロールアンプで、ライン入力の音を聴くさいに、
フォノイコライザーモジュールを取り外すと、それだけで音は改善される。

私が実際に試した例ではマークレビンソンのJC2、GASのテァドラだが、
どちらもフォノイコライザーがなくなりラインアンプモジュールのみとなると、
あきらかな聴感上のSN比の向上だけでなく、
音場感の広がり、余韻の消えていくさまの表情が際立ってくる。

それに力強さも増す。

不要なモジュールがなくなったことによる電源部の余裕が増したこと、
フォノイコライザーモジュールが発するノイズがなくなったこと、などによる音の変化である。
通常、サブウーファーを加える際には、チャンネルデバイダーを用意し、
メインスピーカーのローカットと、サブウーファーのハイカットを行うとともに、信号を分岐する。

サーロジックのサブウーファーはエンクロージュア内部に、
チャンネルデバイダーとパワーアンプをおさめているおかげで、コントロールアンプの出力を分岐し、
メインスピーカー用のパワーアンプとサーロジックの入力端子に接ぐだけですむ。

使いやすい仕様であることは認めるが、信号のループについて考えると、この接続方法で万全とは、やはりいえない。
1989年に思いついたトランスの負性インピーダンス駆動の実験は、まだだ。

このころは、まだ信号系のループについての明確な考えを確立しておらず、
トランスの附加を、トランスという「音味」を、
うまみだけを抽出してシステムにとり入れたいという観点からの発想から捉えていて、
技術的な必要性をつよく感じていたわけではなかったことも、
実験をここまでやらずにほったらかしにしていた。

けれど10年ほど前から信号のループにどう対処するか、そしてサーロジックサブウーファーの導入によって、
コントロールアンプの出力にトランスを附加することを真剣に考えている。
トランスの巻線に、超電導ワイヤーが使われるようになったら、
トランスの性能、音も、大きく変化していくことだろうが、それがいつの日なのかはまったく想像できない。

まだ世の中に現れていないトランスよりも、目の前にあるトランスのよさをできるだけ活かし、
悪さをいかに抑えるか、であるが、コントロールアンプの出力に使うのであれば、
トランスを負性インピーダンス駆動するという手がある。

負性インピーダンス駆動といえば、1988年に、ヤマハがAST(のちにYSTに改称)方式で、
バスレフ型スピーカーと負性インピーダンス出力のパワーアンプを組み合わせることで、
コンパクトなサイズで、驚くほどの低音再生を可能したことを覚えておられるだろう。

AST方式は、ウーファーのボイスコイルの直流抵抗を、負性インピーダンスで打ち消すことで、
バスレフの動作を、より理想的に環境に近づけることに目指したものである。

じつはトランスの巻線の直流抵抗を打ち消すということは、このAST方式からヒントを得た。

AST方式は、なにか新しい技術を開発したというよりも、
以前からあったふたつの技術を組み合わせることによる相乗効果によるものといえよう。

組合せが生みだす面白さが、AST方式にはある。
そして、この発想は大いに真似したいものだ。

だから、トランスと負性インピーダンス駆動の組合せを思いついた。
トランス固有の音を嫌う人がいるのはわかっているし、
私自身も、トランスであれば全てのものがいいと思っているわけではない。
すぐれたトランスを適切に使えば、という前提で書いているし、
けれど、残念なことにすぐれたトランスは、そう多くはない。

いわゆるトランス臭い音は、トランス本体がすぐれたものであっても、
シールドケースの処理が不適切であれば、そのよさが失われるだけでなく、
むしろトランスの悪さを目立たせてしまうことにもなる。

使っていないトランスが手元にあって、それがシールドケースが被さっているものであれば、
面倒な作業ではあるが、そのシールドケースを取りさって音を聴いてみればわかる。

シールドの難しさ、シールドがどれだけ音を変えていくのか、がはっきりと聴きとれる。

なにもトランスにシールドケースは不要といいたいわけではない。
ただすぐれたトランスが少ない以上に、すぐれたシールドを施したモノは、さらに少ないのではなかろうか。

あくまでもウワサではあるが、1980年代に作られていたアメリカのTRIADのHSシリーズの中身は、
日本のタムラ製だった、ときいている。
ただシールドだけはTRIAD社で行なっていたらしい。

そして、トランス臭い音を生みだすもうひとつの原因は、巻線の直流抵抗にあるように思う。
トランスの巻線は、意外と長い。だから、トランスを挿入したからといって、
コントロールアンプとパワーアンプ間のループは、かえって長くなるのでは? という反論もあろう。

たしかに長さということでは、そうだろう。だがトランスはコアに密に巻いてある。
だからループの長さではなく、ループのサイズ(大きさ)ということでは、小さくなるといえるだろう。

そしてくり返しになるが、適切に挿入されたトランスであれば、ループに電源部が絡んでこないことが、
最大のメリットである。

そして、このメリットをより活かすには、単に挿入するだけでなく、
コントロールアンプであるならば、トランス出力を前提とした回路構成、
パワーアンプならばトランスの2次側、つまり受けをどうするかが、重要になってくる。
コントロールアンプとパワーアンプを、仮に長さ2mのケーブルで接続したとものとして、
回路図を見てほしい。
そしてコントロールアンプの出力とパワーアンプの入力間に形成されるループの大きさを想像してみてほしい。
しかもこのループには、電源部も絡んでくる。
複雑で、大きいループになっている。

コントロールアンプの出力にトランスを挿入してみる。
そうすれば、トランスの2次側の巻線とパワーアンプの入力間のループとなり、
コントロールアンプの電源部は、このループに絡んでこない。
ループそのものがシンプルになり、ループもすこし小さくなる。

さらにパワーアンプの入力にトランスをいれると、コントロールアンプ・パワーアンプ間のループは、
コントロールアンプ側のトランスの2次側巻線と、接続ケーブル、
パワーアンプ側のトランスの1次側巻線だけという、さらにシンプルなループになっていく。

信号系のループをよりシンプルにし、よりサイズを小さくしていくのに、いかにトランスが有効であるか、
そしてそのためには、どうトランスを使えばいいのか、
つまりトランスの接続はどうすればいいのかは、おのずとはっきりとしてくる。
それほど複雑な回路のものではなくてもいいから、アンプの回路図をできれば用意してほしい。
増幅部と電源部が独立して描かれている回路図であれば、
別の紙に描き写して、増幅部と電源部を線でつなぐ。できれば片チャンネルだけでなく、左右チャンネルとも描き写す。

それを眺めれば、回路のいたるところにループ(環)があることがわかる。
増幅部だけでなく、電源部、それも定電圧回路だとループの数は増す。

そしてループは増幅部、電源部で独立しているわけではなく、またがっているループが存在していることもわかる。

独立したひとつのアンプだけでもループの数は多い。
素子数が多くなれば、必然的にループの数も増えていく。

そしてアンプ同士を接続すると、ループの数はさらに増えていくのがわかる。
信号に挿入するトランスの数をどこまでも増やしていけば、
トランスらしさだけが残ってくるというものではないことは、容易に想像できる。

極端な数で試したことはないけれど、
おそらくある数までは、トランス臭さが薄れ、トランスらしさが生きてくるだろうが、
その数を越えると、反対にトランス臭さのほうが増してくるのではなかろうか。
それでしばらくトランス臭さが増していき、次の山(谷というべきか)を越えると、
ふたたびトランスらしさが生きてくるようになる。

音には、そういう性質がひそんでいるような気がする。

トランスの数をどこまで増やしていくかの話は措いとくとして、
コントロールアンプの終段にトランスを挿入した場合について、考えてみたい。
再生系でも、トランスがまったくないラインに、ひとつトランスを挿入すると、
いわゆる「トランス臭さ」を音の面で指摘することはできる。

トランスが挿入されたことによる音の変化のさまざまな面のどこに耳をすませるかによって、
トランス臭い音に聴こえたり、トランスらしい音と、好適にうけとめることもできる。

たしかに、トランス臭い音は、トランスのメリットを高く評価している私でも、
たとえば、あまりできのよくないトランスだったり、トランスの使い方で適切でない場合には、ある。

優れたトランスを適切に使用したとしても、メリットばかりでないことは、音の面にも、やはり現われてくる。
それでも、面白いのは、トランスひとつだけだと、トランス臭さが、多少なりとも気になるものの、
優れたトランスの適切な使用法であれば、ふたつみっつ......とトランスを数を増やしていくと、
むしろひとつだけのときよりも、トランス臭さが増すかというと、
私が体験した少ない例ではあるけれど、ふしぎとトランス臭さが、逆に薄れてくるような印象がある。

トランスが全くない系にとって、ひとつだけのトランスは明らかに異物なのかもしれない。
それが、数が増していけば、感覚的には異物ではなくなってくる、といったら、すこし大げさすぎるだろうか。
また1次側のインピーダンスは、とうぜん使用するカートリッジのインピーダンスを考慮しなければならない。

インピーダンスの低いもので1.5Ω前後、高いものだと40Ω程度だから、
これらの値から大きく外れることは、まずできない。

つまりトランスの設計においては、扱う信号の大きさ、
1次側、2次側に接続される機器のインピーダンスなどの制約の中で、うまくバランスをとってつくられるものである。

それに較べると、アンプの設計の自由度は、そうとうに大きいといえる。

こうやってみていくと、トランスの使用にメリットはあまりないように思われるだろう。

MC型カートリッジの昇圧手段としてぐらいならまだしも、
あえてコントロールアンプの終段やパワーアンプの入力にトランスをつけるなど、考えはしないであろう。

ネットワークのところで述べた信号系のループのことを思い出してほしい。
ループの問題に対して、トランスの有用性は高いものがあると、私は考えている。
入力信号が増幅されるものは、アンプである。
ただ厳密に言えば、入力信号が、文字通り増幅されて出力にあらわれるわけではない。

入力信号に応じて、DC電源から必要なエネルギーを取り出しているわけで、
アンプに、入力信号だけでなく、電源というエネルギー源が接がれている点が、
トランスと大きく異るところで、アンプにとって最大出力電圧は、電源電圧によって定まる。

高耐圧の素子を使い、回路を構成し、高電圧をかければ、どれだけでも高い電圧を取り出せることになる。

トランスはというと、巻線比で昇圧比が決まるため、2次側の巻線を限りなく増やしていけば、
最大出力電圧はどこまでも高くできるかというと、そうではなく、
トランスにおいては、小信号用と大信号用とでは,設計方法が異る。
まずコアの大きさがまったく違う。

微小な信号を扱うMC型カートリッジ用の昇圧トランスでは、コアの容積が小さくなり、
物理的に2次側の巻線を限りなく巻くことは不可能であるとともに、
仮に巻けたとしても、2次側のインピーダンスがおそろしく高くなってしまう。

そうなると昇圧トランスの後にくるアンプの入力インピーダンスにそれだけ高い値が要求されることになるわけだが、
実際にはMM型カートリッジ用のフォノ入力のインピーダンスは、大抵47kΩ前後である。

つまり昇圧トランスの2次側のインピーダンスは、この値よりも大きくすることはできない。
トランスの原理は、難しいものではない。

1次側の巻線(コイル)に信号が流れると、1次側巻線が捲かれているコア内に磁束の流れが発生する。
この磁束の流れは、2次側の巻線の中を通る。そのとき2次側の巻線に電流を発生させるわけだ。

1次側と2次側の巻線数が同じであれば、入力信号と同じ電圧で出力される。

もし理想のコア、理想の巻線による、理想のトランス(つまりロスがまったくない)が存在するならば、
入力信号のエネルギーと出力信号のエネルギーは、まったく同じである。
実際にはロスがあるため、同じ巻線数でも、まったく同じにはならないわけだが、
少なくとも加えられた信号のもつエネルギー以上のものが出力に現われることは、絶対にありえない。

くり返すが、トランスを通るエネルギーは、入力信号のみなのだから。

エネルギーは電力であり、電力は電圧と電流の積である。

入力信号以外のエネルギーは、どこからも加えられないトランスにおいて、
昇圧比10のトランスがあれば、出力信号の電圧は10倍になるかわりに、出力電流は1/10になる。

つまりトランスはインピーダンス変換を行うことで、昇圧を可能にしている。
言葉をかえれば、信号が増幅されているわけではない、ということだ。
トランスは、コア(磁性体)と2組以上の巻線から構成されるもので、1次側の巻線が入力、
2次側の巻線が出力となり、
この2組の巻線比が昇圧比であり、1次側の巻線数よりも2次側の巻線数が多ければ、信号は昇圧される。

1次側の巻線数が10、2次側が100であれば、昇圧比は10となる。
ヘッドアンプでは、ゲイン20dB(増幅率:10倍)のものを用意すれば、
入力に0.1mVが加われば、出力電圧はどちらも1mVと同じになる。

といっても、同じ性質の1mVでは、ない。
ヘッドアンプには電源というエネルギーを供給するものがあるのに、
トランスに電源はない。

トランスに加わるエネルギーは、入力信号のみ、である。
歪率においても、トランスは、ヘッドアンプに較べて低域においては不利な面をもっている。

ヘッドアンプは、NFBのおかげで、相当に低い歪率を、静特性とはいえ達成できる。
一方トランスには、NFBといった歪低減に相当する技術がない。

トランスで歪率が問題になるのは、中高域ではなく、低域においてである。
コアに良質の材質を使い、適切に設計され、丁寧に巻かれたトランスであれば、
アンプと同等の特性を得られるときいている。

ただ低域においては、周波数特性がそれほど低域まで伸ばせないのと同じ理由で、
周波数が低くなればなるほど、歪率に関しては不利になっていく性質がある。

1次側巻線のインダクタンスの低下により、信号電流が増え、
コアの磁気特性との絡みから歪が増していく。

こういう物理特性の話を抜きにしても、トランスを嫌う理由として、
信号系に磁性体が介在することをあげる人もいる。
信号系にトランスがはいることをはげしく拒絶する人もいる。

トランスかアンプかということでいえば、MC型カートリッジの昇圧手段として、
ヘッドアンプか昇圧トランスか、がある。

物理特性を比較すると、周波数特性は、ヘッドアンプが断然ワイドレンジである。
DCアンプであれば、低域は0Hz(DC領域)から増幅が可能で、高域も数100kHzにおよぶ。

トランスはというと、昇圧比が高くなればなるほど、
2次側の巻線数が増え、それにともなう線間容量の増加によって高域特性はそれほど広く確保できない。
低域においても、インダクタンスの減少により、1次側のインピーダンスの、低域での低下がおこり、
やはりそれほど低い周波数までカバーすることは無理がある。

1990年ごろから、ジェンセン、マリンエアから、かなり広帯域化されたトランスが登場したが、
それまでは、どんなに特性の優秀なトランスでも、低域は10Hz前後、高域は数10kHz程度であった。
いつのころからか、信号系からトランスを排除する方向が主流となってきた。

良質のトランスは高価なことが多い。もちろん安価でも優れたトランスはあるし、
高価で、見た目も、立派なシールドケースに収められていても(むしろ、そのことがアダになってか)、
さほどトランスを信号系に挿入するメリットを感じさせてくれないものも、ある。

それにトランスは、伊藤先生の言葉を借りれば、
生き物だから、他のパーツ以上に、気難しい面ももっているように感じている。

もっとも安価なトランスでも、トランジスターやFETとくらべるとずっと高価だし、
いまではOPアンプで簡単に代用できるとこも多いので、そうなると、トランスの使用はそうとうなコスト高になっていく。

そういう価格的なデメリットと、性能的にも、指の爪ほどのサイズのOPアンプ(価格も安いものだと100円以下)が、
NFBのおかげで、トランスよりもずっとワイドレンジな周波数特性をもっている。

その他にもトランスが使われなくなってきた理由は、いくつか挙げられるが、
とにかくコントロールアンプで、最終段にトランスをしょっている市販アンプは、皆無に近い。
4343だと、アース線が最低でも13本になると書くと、なんと複雑なことだと思われる方もいるかもしれない。

アース線が1本のほうが、13本よりもシンプルであるわけではない。
アース線の役割から考えれば、きちんとこまかく分けた方が、実はシンプルであるということに気がついてほしい。

単純(シンプル)であるかどうかは、数によって判断されるものではない。そのものの動作で判断すべきことである。
個人のブログやサイトで、AC電源のループを問題にしている記述をよく見かけるようになった。

この問題については、1980年代のおわりごろに、ラジオ技術誌で、富田嘉和氏が指摘されていたし、
その記事の中で富田氏が推薦されている技術書を読めば、
それ以前から、この問題が指摘されていたことがわかる。

つまり決して新しい問題ではない。だから、なぜいまごろ? という感じがするし、
それだけでなく電源系のループを問題にする前に、信号系のループにも、というか、
こちらのほうに先に目を向けるべきでないか、とも思う。

アンプ(電子機器)のなかには、いくつものループ(環)が存在している。
しかもそれらは重なっているものがある。

これは、もう直感でしかないが、これらのループをいかに減らし、
そして重なり具合を減らし、しかもループの面積をいかに小さくしていくかが、
音を良くする、というよりも、音を劣化させない(させにくい)ことにつながっていると思う。
スピーカーのネットワークの回路図は、ちょっと探せば、いろんなところに載っている。
そのウーファー部分だけでいいから、抜き書きしてみる。

そして入力のところはオープンになっているはず。そこに、実際の使用ではアンプが接がられるわけだから、
オープンのままにしないで、アンプを示す三角マークを書いてもいいし、
アンプはスピーカーにとって信号源であるから、丸の中に「〜」を描いた記号で閉じてみる。

ネットワークのコイルやコンデンサーの値は入っていなくていい。

この回路図を見ると、いくつものループ(環)があることに気がつかれるだろう。

ネットワークなしの場合だと、アンプとスピーカーの間にはなんら素子は介在しないので、
ループは、大きいものがひとつだけである。

−6dB/oct,のネットワークの場合は、コイルが直列にはいるだけであり、このループに関しては変化はない。

−12dB/oct,以上のネットワークとなると、並列にコンデンサーが挿入されることになり、
このループが増えることになる。
しかもそのループは重なっていることに注目してほしい。
内蔵ネットワークのアース(マイナス)線を、こうやって分離していくと、
たとえばJBLの4343は、4ウェイで、ウーファー以外の3つのユニットにはレベルコントロールがついているから、
スピーカーシステムから出てくるアース線は、最低でも13本になる。

4343では、さすがに試したことはないが、アース線をきちんと分離していく効果は大きい。
自作スピーカーの2ウェイなら、それほどの手間をかけずに、このような配線に変更できる。

ネットワークがスピーカーシステムに内蔵させれ、
パワーアンプとスピーカーシステム間を1組のスピーカーケーブルで結ぶのは、
見直すべき時期に来ているのかもしれない。

ネットワークの動作原理を考慮すれば、アース線を分離すべきであろうし、
アース線をなんでもかんでもいっしょくたにした状態で、ひじょうに高価なスピーカーケーブルを導入したとして、
そのケーブルが真に優れたものであったとしても、
その効果のほどは、実際のところ、かなり半減しているのかもしれない。

半減といえば、せっかくの高価なスピーカーケーブルを導入しながらも、
ケーブル長があまっているからと、トグロをまかせていては、単なる自己満足で終ってしまう。
具体的には、プラス側の配線は1本だが、
アース側は、コンデンサーからの配線が1本、ウーファーのマイナス端子からの配線が1本、
計2本を独立して、アンプの出力端子までひっぱってくることになる。

−18dB/oct.の減衰量のネットワークでは、コイルがもうひとつ直列に入るだけで、
並列に挿入される素子(ハイカットの場合、コンデンサー)はないので、
−12dB/oct.のときと同じ、アース側の配線は2本でいい。

−24dB/oct.の減衰量となると、コイル(直列)、コンデンサー(並列)、コイル(直列)、
コンデンサー(並列)となるので、アース側の配線が1本増える。つまり3本になる。

−12dB/oct.と−18dB/oct.のネットワークのバイワイヤリングだと、
プラス側はウーファー、トゥイーター側に1本ずつで計2本、
アース(マイナス)側は、ウーファー、トゥイーターともに2本ずつで計4本、
つまり3組のスピーカーケーブルを使うことになる。

さらにトゥイーター側にアッテネーターが挿入されている場合には、
このアッテネーターからの配線が1本増えることになる。
あれこれ試していくうちに、パワーアンプ出力からスピーカーシステムの入力端子までの配線において、
なにを重要視すべきかということが、すこしずつ把めていると思う。

意外にも重要なのは、アース(マイナス)側だと思っている。
そうなると、ネットワークを含めて考えると、アース側の配線(スピーカーケーブル)の本数は、
もっと増やしたくなる。

内蔵ネットワークが−6dB/oct.の減衰量であれば、ウーファーに対して直列にコイルがひとつはいるだけだから、
アース側の配線を増やすことはない。

−12dB/oct.の減衰量のネットワークとなると、あくまでウーファーだけの話しですすめていくが、
コイルのあとにコンデンサーが並列にはいる。
ということは、このコンデンサーを流れる信号と、ウーファーを流れる信号は異るわけだ。
なのにアース側の配線は、一緒くたにしている。
流れる信号が異れば、共通インピーダンスまで勘案すると、わけるべきである。
シングルワイヤーからバイワイヤリング接続にするときに試してほしいと思うことがある。

シングルワイヤーでタスキ掛けの接続(片方はウーファーのプラス、
もう片方はトゥイーター側のマイナス、もしくはその逆の接続)もそうだが、
プラス側はウーファー、トゥイーターで分離して、マイナス側はまとめて1本にしたときの音、
そしてその反対の、プラス側はウーファー、トゥイーターはまとめて1本、
マイナス側をウーファー、トゥイーターで分離してみる。

これらのことはほとんどお金をかけずに試してみることができる。
そうであるならば、積極的に、接続を思い浮かぶすべての方法で、その音をどんよくに聴いてみる。

井上先生が、デジタル出力を、アンプのライン出力に接続されたように、とにかくやって、
その音を聴き、経験則を身につけていく。
決して数多くの例を見てきているわけではないけれど、
それでも、なんとはなくであるが言えるのは、
バイワイヤリング対応のスピーカーシステムのシングルワイヤー使用時に、
トゥイーター側を選択する人は、比較的小口径ウーファーを、
ウーファー側を選択する人は、比較的大口径ウーファーを指向するのではないか、ということ。

必ずしも現用のスピーカーがそうでなくても、音を聴いたり話をしてみると、
そう感じることが、たまにある。
バイワイヤリング対応のスピーカーシステムをシングルワイヤーで鳴らす場合、
最終的には、比較試聴して、どういう結線にするかは、使う人の判断によるわけだが、
その判断するための試聴をするためには、まずどちらかのスピーカー端子に接ぐわけである。

このとき、ウーファー側の端子か、それともトゥイーター側の端子に接ぐのかは、
その人の音の聴き方が、やはり現われていると思う。

人それぞれ、それまでの経験から、どちらにするかは選ぶわけだろうから、
トゥイーター側に接いだほうがいいと判断している人は、ほぼ無意識のうちにトゥイーター側の端子を選び、
間違ってもウーファー側は選ばないはず。

もっとも最近では、プラス側はウーファー、マイナス側はトゥイーター(もしくはその逆)という、
変則的な接続も見かけるようになった。

井上先生は前出したようにウーファー側に、
私のまわりでは早瀬さんもそうだし、友人のAさんもそうだ。もちろん私もウーファー側を優先する。
低音再生といえば井上先生、というイメージが、どこかにある。
たぶんにステレオサウンド 48号に掲載された、
岩竹義人氏との「超低音再生のための3D方式実験リポート」の印象が強かったためであるのだが、
インフィニティのIRSのウーファータワー、
BOSEから出たAWCS1キャノン・サブウーファーシステムを調整されているときの井上先生の表情を見ていると、
いつもの試聴時とはすこし違う表情をれれて、楽しんでおられることが伝わってくる。

よく言われていたのは、低音は、もっとも重要なベーシックトーンだから、
オーディオにおける音楽再生では、最優先に考えなければならない、ということだ。

だからバイワイヤリング対応のスピーカーシステムをシングルワイヤーで鳴らす場合、
ウーファー側の端子にスピーカーケーブルを接ぐのか、トゥイーター、スコーカー側の端子にするのかは、
必ずウーファー側だった。
30cmウーファーを4発使ったスピーカーシステムといえば、
インフィニティが1988年に発表したIRSベータがそうだ。

グラファイトで強化したポリプロピレン採用のコーン型ウーファーを4発、縦一列に搭載したウーファータワーと、
中低域以上はインフィニティ独自のEMI型なので、タワーというよりも、プレーンバッフル形状で、
指向性は前後に音を放射するバイポーラ型。

4発搭載されているウーファーのうちの1基は、MFB方式(サーボコントロール)が採用され、
専用のチャンネルデバイダーに、ウーファーからの信号がフィードバックされている。

このサーボコントロールをオンにした状態で、ウーファーのコーン紙を軽く押してみると、
瞬時に押し戻される感触があり、この機能を実感できる。

サーボコントロールのおかげだろうか、ウーファータワーのサイズは、奥行きがそんなにないのと、
フロントバッフルもウーファーのサイズぎりぎりまで狭められていて、実は意外にコンパクトである。

このIRSベータを、井上先生が、ステレオサウンドの試聴室で鳴らされた音を聴いた。

風圧を伴っていると感じるくらいの低音の凄さを聴くと、大半のスピーカーの低音の再生に物足りなさを覚えてしまう。

IRSベータの試聴がおわったあと、井上先生が、試聴室横の倉庫をのぞかれて、
「おい、あれ、持って来いよ」と言われた。
BOSEの301だった。

何を指示されるのかと思っていたら、301とIRSベータのウーファータワーの組合せだった。
おそらく、こんな組合せの音を聴いたのは、その時試聴室にいた者だけだろう。

井上先生の凄さは、こういう組合せでも、パッパッとレベルをいじり、それぞれの位置も的確に決められ、
ほとんど迷うことなく、ごく短時間で調整されるところにある。

この音も驚きであった。低音再生の深みに嵌っていくだろう。
家庭内で、よほど大音量を鳴らさない限り、
ウーファーの振幅が目に見えるほど前後に大きく振動することはまれである。

ハーマンインターナショナルのサイトにある許容振幅
──38cm口径だと4cm、20cmだと2cmとある──まで、使うことのない音量では、
小口径と大口径の振動体積の差は、あの表にある数値ほどではない、
自社の製品にとって都合の良い、便宜的なものだ、という声もあると思う。

JBLが比較しているのはコーン型ウーファーである。
コーン型ウーファーは、大口径になるほど、コーンの深さは増す。

コーンの頂角はメーカーや機種によって異るとはいえ、38cm口径と20cm口径とでは、
振動板が囲っている体積は、そうとうに違ってくる。

スピーカーとういものが、振動板が前後に動いて空気の疎密波をつくりだすものである以上、
面積よりも、重要なのは体積であることを、例え便宜的なものであったとしても、
JBLの表は教えてくれている。
2006年のいまごろ、ハーマンインターナショナルのウェブサイトを見ていたら、
JBLが大口径ウーファーにこだわる理由の説明がなされていた。

このページは、JBLのホームオーディオに行き、
テクノロジー解説の「スピーカーシステムの低音再生能力について」にて読める。
リンクしてもよかったのだが、3年前と今とでは、サイトが作りかえられたためだろう、
アドレスが変更されていた。
今後もサイトの変更とともにアドレスも変更されるだろうから、あえてリンクはしなかった。

そのページでは、4インチ(10cm)口径から15インチ(38cm)口径まで8つのサイズのユニットの
振動板面積、許容振幅、振動体積を表組みで提示してある。

振動板面積は、ユニットの口径から算出した円の面積である。
注目したいのは、振動体積だ。

38cm口径だと4534cc、30cmは2120cc、20cmは628cc、10cmは79ccとなっている。
この振動体積は、振動板面積と許容振幅を掛け合わせて得られる、1振幅当りの値である。

この振動体積で比較すると、38cm1発と同等の値を得るには、
30cmだと2発、20cmだと7発、10cmになると50発ものウーファーが必要となる。

振動体積だけで低域の再生能力の全てが語れるわけではないだろう。
それでも、井上先生が言われた、
「38cmなら(片チャンネル当り)2発、30cmなら4発」というが、ぴったりあてはまる。

井上先生は、長年の、ご自身の体験から得られた感覚的な結論として言われたのであって、
振動体積を考慮しての発言ではなかったと思う。

38cm2発と20cm14発、どちらが優れた低音再生能力を見せてくれるかは、
実際に試してみないことにははっきりしたことは言えないが、ひとつだけ言えるのは、
20cm14発のシステムをつくることは、38cm2発のシステムを組むよりも、
そうとう大がかりで困難な作業であることは明らかだ。

38cm2発ならば、ユニット配置は縦にするか横にするかぐらいだが、
14発ともなると、どうレイアウトするかだけでも難しい。
それにユニットの接続も、2発なら並列につなぐことが基本になる(直列接続がいいこともある)が、
14発ではシリーズとパラレルを組み合わせるしかない。
この組合せをひとつひとつ、音を聴いて確かめていく作業だけでも、気が遠くなりそうだ。

JBLのウェブサイトに示されている各口径のスペックは、あくまでもJBLの基本的なユニットの値である。
許容振幅は38cmが4cmなのに対して、20cmだと2cmだ。
他のメーカーが独自技術で、20cm口径の許容振幅を大幅に向上させたら、
10cmを超える振幅を実現したら、話はまた違ってくるだろう。
低音再生について、井上先生が言われていたことがある。
「本気で取り組むのなら、38cm口径ウーファーを方チャンネル当り2本、
30cm口径だったら4本ぐらい、用意するくらいじゃないと、ね」

同じことをステレオサウンドにも書かれていたはずだ。

よくウーファーの口径について語る時、
38cm口径1本と20cm口径4本分の面積は、ほぼ同じだとある。
円の面積だけで考えれば、間違いではない。

井上先生の話を聞いていた時、私も面積で考えていた。

38cm口径2本よりも、面積でいうなら30cm口径4本のほうが広い。
ならば、30cm4本のほうが、好結果が得られるかもしれない、そんなことを安易に思ったこともあった。

同じことは振幅についても言われている。

口径が38cmと20cmの場合、円の面積比は4対1だから、
20cm口径ウーファーの振幅を38cmの4倍にすれば等価である、と。

スピーカーユニットの口径は、円の面積では語れないのである。
オーディオ誌が、小型スピーカーを取りあげるとき、スモールスピーカーと言ったり、
コンパクトスピーカーといったりするが、小型・イコール・スモールはいいとして、
小型(スモール)・イコール・コンパクトではないと言っておきたい。

コンパクト(compact)は、本来は数学用語のようだが、その定義について書こうとは思っていない。
それよりも、川崎先生が、AXIS誌で連載されている「デザインのことば」で、
コンパクトについて書かれているのを読んでほしい。
「デザインのことば」は、川崎先生のサイト「Kazuo KAWASAKI」で、いつでも読むことができる。
ありがたいことだ。
下部左端の information をクリックすると、「デザインのことば」にアクセスできる。
全文はアクセスして読んでいただくとして、一部引用しておく。
     ※
COM=共に、PACT=堅く締めるという原始的な意味がより明確になってくる。
つまり、より狭く閉塞された空間の中で、密集する要素や、
ぎっしりと詰め込んだ状態を表現する言葉になっていることが理解できる。
そこで、一般的には、体積的により小さく、
その空間に凝縮された中身が詰っていることになる。
     ※
つまり、見た目が小型だから、コンパクトではない。
現行スピーカーの中で、コンパクト・スピーカーは何かといえば、
B&OのBeoLab5であり、JBLのDD66000である。

コンパクトであることが、これからの現代スピーカーの条件だと、私は考えている。
ワトソン・オーディオのModel 10の外形寸法は、横幅60×高さ120×奥行き55cmである。

全体の構成は、横幅60×高さ40×奥行き55cmほどのエンクロージュアの上に、薄い衝立が立っている。
5ウェイで、ウーファー(20cm口径を2発)をエンクロージュアにおさめ、
上の帯域のユニットは、衝立に取りつけられている。
ダルキストのDQ10に、このへんのつくりは似ている。
ウーファー部分だけ、サブウーファー単体として発売されていた。

Model 10の公称周波数特性は、17〜25000Hz(±5dB)である。
ウーファー部分を、単体のサブウーファーとして発売するのも頷けるレンジの広さである。
しかもさほど大きいサイズでもない。
板厚が不明なので内容積は正確にはわからないが、70リットル前後か。
ブックシェルフ型スピーカー程度の大きさだ。

このウーファー・エンクロージュアには、ヘリウムガスを封入されていた。
ヘリウムガスの音速は、通常期空気のおよそ1/3程度だ。
つまり内容積は、縦・横・奥行きがすべて3倍になるため、3の3乗で27倍に相当する、
というのがワトソン・オーディオの説明であり、特許を取得していたはずだ。

70リットルとして、27倍となると、1890リットル。
壁にユニットを取りつけて、隣室をエンクロージュア代わりに使うようなものだ。

残念ながら、このスピーカーも実物を見たこともない。

けれど、ステレオサウンドにいたころ、傅 信幸さんの試聴中に、なにかのきっかけで、
このスピーカーの話になったときに、
「あのスピーカーの、低音はすごかった、新品の時はね。」

やはりヘリウムガスが、どうしても抜けてくる。
エンクロージュア内部にはビニールを使うなどして、もちろん工夫してあったのだが、
完全な密閉構造は、たやすくない。

ヘリウムガスが抜けてしまった後の音は、
「ふつうの、あのサイズのスピーカーの低音」だそうだ。

とはいえ、このスピーカーの指向しているものは、いまでも興味深い。
1980年ごろ、日本に一時期輸入されたブランドに、ワトソン・オーディオがある。

クレルを創立する前に、ダニエル・ダゴスティーノが在籍していたことや、
ガス入りのコンデンサー型スピーカー、XG8を開発したカナダのデイトンライトのグループ企業である。

XG8は、ガスを入れることでコンデンサー型スピーカーの弱点である耐入力を改善するとともに、
フルレンジの8枚のパネルを上下に4枚ずつ配置。それぞれに角度を持たせることで、
たしか斜め方向への指向性を強くしていたように記憶している。
ステレオ再生に求められる指向性を研究しての結果らしい。
残念ながら、実物を見たこともないので、どんなふうに音場感が展開するのかは不明。

コントロールアンプのSPSも、奥に長いシャーシで、リアパネルのラッチを外すと、
シャーシ全体が二分割されるという、メインテナンスに配慮した構造を持っていた。

それから、この時代にめずらしい、本格的なヘッドフォンアンプも製品化していたはずだ。

そういう、他社の製品とは、どこか一味違う製品をつくっていた会社のもうひとつのブランド、
短命で終ったものの、ユニークなスピーカーだった。

小型スピーカーではなく、コンパクトスピーカーと呼べる、はじめての製品かもしれない。
LS3/5AとAE2とでは、まさしく隔世の感だ。

おそらく早瀬さんのリスニングルームのエアーボリュームではSL700でも、
あそこまでの音量を、何の不安さを感じさせずに鳴らすことは無理だろう。
ましてLS3/5Aでは、低域を思いっきりカットしたとしても、到底無理である。

だからといって、LS3/5AがAE2に対して、すべての面で劣っているとは思っていない。

ちょうどいまごろの季節、夜おそく、ひとり静かにしんみりと、ひっそりと音楽を味わいたいとき、
ごく小音量で親密な音楽との接し方を望むとき、LS3/5Aは、やはり最適の存在である。

この良さが、SL6以降、薄れはじめ、AE2では、もう希薄というよりも、無いと言いたくなる。

たとえ深夜であろうと、まわりを気にせず、好きな音量で聴ける環境を持っていたとしても、
日本に住んでいると季節感と無関係ではいられない。
個人的な趣向かもしれないが、肌寒くなって来はじめたころになると、
LS3/5Aの鳴り方が恋しくなってくる。

こういう情緒的なところをもつスピーカーを、手元においておきたいものだ。
ARのスピーカーが、それまでのフロアー型スピーカーと比べると小型化に成功したときから、
小型スピーカー・イコール・密閉型という図式が続いてきたと思う。

セレッションのSL6以前の小型スピーカーのディットン11も密閉型だし、
すこし大きめのUL6はパッシヴラジエターを採用して、低域を補っている。

およそ小型スピーカーでバスレフ型というのは、アコースティック・エナジー以前には見たことがない。
そして、この後、小型スピーカーのバスレフ型が増えていくことになる。

このことは、おそらく小口径ユニットが各部の改良によって、
かなりの振幅でも使えるようになったためではないかと思う。

AE2は、早瀬さんが一時期鳴らされていたことがあるので、
数回にわたって、かなりの時間を聴くことができた。

当時の早瀬さんのリスニングルームは、広かった、そして大きかった。
おそらく50から60疂ほど広さで、弧を描いている天井も、いちばん高いところでは、
5、6mほどあったと思う。
さらに低域がこもらないようにと、廊下と続いている。

だからエアーボリュウムとしては相当なものだ。
そういうところで鳴らしても、まったく平気だったのがAE2だ。

心配することなくボリュームを上げていける。
おそらくアコースティック・エナジーの謳い文句どおりに、
ウーファーのアルミ振動板がきっちり放熱しているのだろう。

LS3/5が登場したのが1970年、改良モデルのLS3/5Aが75年、SL6が82年、
AE1、AE2の日本登場は90年だが、イギリスでは87年に登場しているらしい。

SL6からわずか5年である。
セレッションのSL6の登場以降、いわゆる小型スピーカーの鳴り方は、
ロジャースLS3/5Aと比べると大きく変化した。

小型スピーカーだから、あまりパワーを入れてはいけない、大きな音はそれほど望めない、
低域に関してもある程度あきらめる......などといった制約から、ほぼ解放されている。

SL6はその後、エンクロージュアの材質を木からアルミ・ハニカム材に変更した上級機SL600を生み、
さらにトゥイーターの振動板をアルミに変更し、
専用スタンドとの一体化をはかったSL700へと続いていく。

同じイギリスからは、すこし遅れてアコースティック・エナジーが登場している。
フィル・ジョーンズが設計をつとめたAE1とAE2は、
アルミ合金を芯材として表面を特殊処理の薄膜シートで被うことで、
高剛性と適度内部損失を両立させただけでなく、
大入力時のボイスコイルの熱を効率良く振動板から逃がすことにも成功している。
口径はわずか9cm、センターキャップが鋭角なのも視覚的な特徴であるとともに、
このブランドのスピーカーの音とぴったり合う。

トゥイーターもマグネシウム合金を採用するなど、意欲的な設計だ。

そしてAE1、AE2が、LS3/5Aとはもちろん、SL6とも大きく異るのは、
バスレフ型エンクロージュアを採用していることだ。
セレッションSL6の開発スタイルは、同じイギリスのアレックス・モールトンとそっくりだと思う。

アレックス・モールトンは小口径ホイールの自転車で、
日本で一時期流行したミニサイクルの原型と言われている。

開発者のモールトン博士は、理想の自転車を開発するために、
まず従来の大口径ホイール(28インチ)とダイヤモンド・フレームという組合せだけでなく、
いままでの自転車の乗り方にまで疑問を持ち、自ら、ひとつひとつの疑問に答を出し、
その結果が、小口径ホイール(17インチ)とサスペンション、トランス・フレーム採用の、
現在の形態である。

通常とは異る乗り方も考え出したらしいが、危険な面もあり、従来の位置関係を踏襲している。

モールトンは、まずサイズありき、でもない。一般的な常識ありき、でもない。
従来の枠組みの中での理想を追い求めたのではない。

アレックス・モールトンの輸入元は、
質量分離型トーンアームの DV505やスーパーステレオ方式、
ダイヤモンドカンチレバーを早くからカートリッジに採用していたダイナベクターである。

ブリヂストンがライセンス生産しているブリヂストン・モールトンもある。
セレッションSL6の横幅は20cmである。
開発リーダーのグラハム・バンクが当時語っていたのが、
エンクロージュアの横幅が広いと音場感の再現に悪影響をもたらす、ということだった。

エンクロージュアの左右の角からの不要輻射とユニットからの直接音との時間差が
ある程度以上になると、人間の耳は感知し、その結果、音場感がくずれてしまうらしい。

スピーカーを左右の壁に近づけすぎると、
スピーカーからの直接音と壁からの一次反射音との時間差が少なくなると、
部屋の響きとしてではなく、音の濁りとして感知されるということは、
以前から言われていたが、エンクロージュアの不要輻射に関しては反対のようだ。

おそらく面と線(エンクロージュアの角)の違い、
反射と不要輻射の違いからくるものだろう。

個人的な意見だが、エンクロージュアの側板の鳴きは、響きが美しければ、
スピーカー全体の音を豊かに響かせてくれると感じている。
スピーカーの角度の振りは、聴取位置から、
エンクロージュアの側板が見えるくらいの方が、時として楽しめる音を出してくれる。

グラハム・バンクによれば、ひとつの目安として、
エンクロージュアの横幅は、人間の左右の耳の間隔と同じにすることらしい。
これよりあきらかに横幅が大きくなると、音質上問題が生じるとのこと。

SL6のウーファー口径の15cmは、エンクロージュアの横幅をぎりぎりまで狭くしたいことも
理由のひとつだったのかもしれない。

日本のスピーカーで、ラウンドバッフルが流行った。左右のコーナーを直角ではなく、
丸く仕上げている。

ラウンドバッフルは指向性の改善のためと言われているが、
ある程度低い周波数まで効果があるようにするには、かなり大きいカーヴが必要になる。
ダイヤトーンの2S305くらいのラウンドバッフルでなければ、改善効果は高い周波数に限られる。

にも関わらずカーヴの小さなラウンドバッフルが増えてきたのは、不要輻射を抑えるためである。
直角よりも少しでもラウンドバッフルにしたほうが、
エンクロージュアの左右の角からの不要輻射は減ることがわかっている。
一般的なコーン型ユニットの口径は、8cm、10cm、12cm、16cm、20cm、25cm、30cm、38cmである。

セレッションのSL6のウーファーの口径は15cm。おそらく他のメーカーだったら16cmを採用しているだろう。
15cmと16cm、それほど大きな違いはないようにも感じられるが、
あえて15cmにしている点は見逃せないと思える。

SL6のユニットは、トゥイーターもウーファーも、専用の新規開発だから、
16cmすることもたやすかったはず。
それにウーファーは面積が大きいほど低音再生に関しては有利になってくる。

SL6はウーファーは高分子系重合材を振動板に採用している。
剛性、内部損失、経年変化の度合い、製造時のバラツキの少なさなどを考慮しての選択だろうが、
おそらく16cmもつくっていると、私は思っている。もしかしたら14cmのものをつくっているのかもしれない。

それらをレーザー光線による振動の動的解析を行なった上で、振動板の材質との兼合いも含めると、
15cm口径が、彼らの求める性能を実現してくれたからなのだろう。

まずサイズありき、の開発では、15cm口径のウーファーはあり得なかっただろう。

そういえば、同じイギリスのグッドマンのAXIOM80も、約22.5cmという中途半端な口径だった。
どちらかといえば保守的な印象の濃いイギリスだが、
暗黙の規格に縛られないところもイギリスの良さなのかもしれない。
ジェフ・ロゥランドDGのModel10、12のカタログには、
8Ω負荷時38Wの連続出力を持つパワーデバイスを、Model10は12個、
model12は12個だが、こちらはモノーラル仕様なのでステレオだと24個使っている、とある。

このパワーデバイスは、ようするにパワーICで、47研究所のGainCardに使われているものより、
ひとまわりサイズが大きく、出力も大きいLM3886というパワーICである。

Model10は、LM3886を12個使っているわけだから、片チャンネル当り6個使用。
内部を見るとわかるが、LM3886のNFBループ用の抵抗には、
コンピューターや最近のデジタルオーディオ機器に使われるようになったチップ抵抗を、
プリント基板に取り付けられているものの、サイズの小ささを活かして、
LM3886のリード線ぎりぎりまで近づけて、やはりNFBループをかなり小さくするよう配慮されている。

つまりGainCardと同じ思想でつくられたアンプを、
Model10は、片チャンネル当り6個並列に接続しているといえる。
アンプ全体としてみると、GainCardよりもかなり大型のジェフ・ロゥランドDGのアンプだが、
中身に関しては、特徴的なところはそっくりである。
クレルの初期のパワーアンプとは対照的な思想でつくられているのが、47研究所のGainCardだ。

GainCardのクローンという意味のGainCloneで検索すると、海外の自作マニアのサイトが数多くヒットする。
47研究所のGainCardをそっくりそのまま模倣したものから、
設計思想はそのままで、使用するパワー ICを、より大出力のものに変更したり、
電源とアンプ本体を一体化したり、真空管によるバッファーを前段に設置したり、と、
それぞれ創意工夫がこらされている。なかには空回りしているものも......。

トランジスター、FET、抵抗やコンデンサーを組み合わせてつくるディスクリート構成と比べると、
OPアンプ(パワーIC)によるアンプは性能だけでなく音質面でも低いものと見がちだが、
必ずしもそうではなく、結局は、広い意味での使いこなしである。

GainCardは、パワーICを使い、入力端子、出力端子との配線も極力短縮化し、
信号経路の短縮化を実現している。
さらにパワーICのリード線に直接NFB用の抵抗をハンダ付けすることで、
NFBループもひじょうに小さなものになっている。
結果、アンプ本体は手のひらに乗せることが出来る。

47研究所のサイトでは信号経路の短さが謳われているが、注目したいのは、NFBループの小ささだ。

携帯電話やパソコン、インバーター式の家電製品が氾濫し、オーディオ機器は、
あらゆる高周波ノイズにさらされている。

高音質化をうたい、高音質パーツ(大概大きい)を使い、ディスクリート構成で安易に組み上げると、
NFBループが大きくなってしまう。ここから高周波ノイズがはいってくる。
NFBループは小さいほどいい。

パワーICを使っても、プリント基板にパーツを配置して、となると、
リード線に直接ハンダ付けと比較するとNFBループは大きくなる。
それを嫌い、作業としては何倍も面倒なリード線にハンダ付けの手法をとっている。

アマチュアライクという人もいるだろうが、確実な方法だと私は思っている。

47研究所のGainCardと同じ思想でつくられているのが、ジェフ・ロゥランドDGのModel 10、12だ。
クレルの独自のパーツ配置は、その後、他社のアンプと同じように凝集されていく。
パーツ同士が近接すれば、互いに干渉する度合いが強まる。
離せば、干渉は減っていくが、配線がのび、信号経路が長くなる。

一概にどちらが正しいとは言えない。
それでも初期のクレルのアンプで聴けた音の質感は、
あのコンストラクションと無縁ではないと、いまでも思っている。

クレルのKSA100やKMA200のコンストラクションで特徴的だったことをひとつ書くと、
ヒートシンクとファンの位置関係がある。

ファンを使っているアンプでは、ヒートシンクが横方向に置かれていることが多いが、
クレルでは縦方向であり、ファンの位置も、こういう場合、ヒートシンクの上に取りつけられる。
クレルはというと、シャーシ底板とヒートシンクの間に、
ファンがゴムプッシュを介して取りつけられている。めったにない取付け方法だ。

パワーアンプのパーツの中では、電源トランスに次ぐ重量物がヒートシンクであり、
通常なら、シャーシにしっかりと固定するものを、
あえてファン上に置き、左右に力を加えると、多少ふらつくようにしている。

おそらく、この点は、常識にとらわれることなく、耳で判断しての結果であろう。
1981年ごろのクレルとスレッショルドのパワーアンプのラインナップ構成は似ている。
最上級機がモノーラルで、下の2機種がステレオ構成で、規模も出力も価格に比例している。

こういうラインナップは川の流れに例えられる。
上流がいちばん小型の機種、中堅機が中流、最上級機が下流といったぐあいに、だ。

川の上流に行くにしたがい、川幅に狭くなり水流も少なくなる。
けれどわき出したばかりの水は勢いがあり、水しぶきも目にまぶしい。

中流に行くと川幅も広くなり水の量も増える。ただし水そのもの透明度や新鮮さは薄れている。

下流になると、圧倒的な水流になる。
天候の影響で水かさが増したとき、上流ではそれほど増えなくとも、下流ではものすごい水流となる。

クレルもスレッショルドも真ん中の機種、KSA100とSTASIS2が中庸といえる。
そのラインナップのリファレンス的な音であり、規模である。

下のモデル、KSA50、STASIS3になると、より反応がきびきびした印象が増してきて、
透明感も聴感上のSN比の良さもきわだってくる。
かわりに、やはりスケール感は、最上級機と比べるとあきらかに小ぶりになる。

KMA200、STASIS1は価格も規模も違うだけあって、たっぷりと音が出てくる印象をまず受ける。
すべてに余裕があり、SL6をKMA200で鳴らしたときのように、思わぬ驚きを聴かせてくれる。
これに、KSA50、STASIS3がもつ、反応の、きわだった良さが加われば
ほんとうに素晴らしいことだが、
残念ながら、80年代のアンプはこの傾向を克服できなかったように思う。

現在のアンプはどうだろうか。
同一ブランドのパワーアンプすべてをならべて聴く機会がないため、なんとも言えないが、
少なくとも技術は進歩している。
出力段に使われるトランジスター、FETにしても、
従来なら複数個並列接続して得ていた出力を、
いまなら1組、もっと少ない数の素子で実現できる。

もしかすると、いまは最上級機がすべてにおいて優れているのかもしれない。
けれど、それは案外、オーディオをつまらなくしている面もあるだろう。

以前のクレルやスレッショルドのような音の傾向の違いは、
何を求めるかによって──純度の高さを優先する人なら、
KMA200やSTASIS1を購入する経済力があっても、
KSA50やSTASIS3の選択があり得た。

KMA200やSTASIS1が買えなくて、KSA50、STASIS3をかわりに買ったとしても、
これならではの魅力に気がつけば、イソップ童話のキツネになることはない。

以前のパワーアンプには、こういう、必ずしもヒエラルキーに支配されない面白さがあった。
いまはどうなのだろう。
クレルのPAM2とKSA100が印象ぶかく記憶に残っているのは、音だけではなくて、
独特の処理による、シルクのような白い質感のフロントパネルと、
クレルのブランドロゴを刻んだ金属プレートとマイナス・ビスの金色、
この対照的な金属の組合せが醸し出す雰囲気は、クレルの音そのものだった。

金色のプレートはその後も変らなかったが、
シルクの質感に近いパネル処理は、しばらくしてなくなり、青色になったり、
また白にもどっても、初期のパネルとは違う質感だったりと、入荷の度に変わっていた。

のちにわかったことだが、初期のクレルのパネルの処理は、ある職人ひとりの技術で、
誰にもマネできないものだったのが、
その職人の死により、技術そのものが消えてしまったときいている。
同じ質感を再現しようと、かなりの試行錯誤をくり返したが無理だったらしい。

クレルのパワーアンプのラインナップは、KSA100(100Wのステレオ機)のほかに、
KSA50(50Wのステレオ機)とKMA200(200Wのモノーラル機)から成っていた。
これと同じといえるラインナップを揃えていたのが、スレッショルドであり、
STASIS1、STASIS2、STASIS3の3機種だ。

STASIS1がトップモデルで、これだけがモノーラル構成、STASIS2が中堅モデルで、
STASIS3はもうすこし規模が小さくなる。

型番が示すように、3機種ともSTASIS(ステイシス)回路を採用している。
クレルのデビュー作、KSA100は、A級動作で100W+100Wの出力を持つということもあって、
かなり大型のシャーシを採用しているが、自然空冷ではなくファンによる強制空冷である。

あれだけの大きさのシャーシであれば、ヒートシンクをシャーシの両サイドに配置することで、
自然空冷も可能だろうが、KSA100は、かわりに内部のパーツ配置に、
それまでの他のアンプでは見られなかったほどの余裕を割いている。

熱の問題に対処するためだというパーツ配置だが、
電源トランスからはフラックスが出ているから、あまり近くにパーツがないほうがいい。
それに平滑用の電解コンデンサーからもフラックスは出ている。

1980年代のパイオニアのアンプやCDプレーヤーの内部を見ると、
電解コンデンサーに銅箔テープを巻いている。これもフラックス対策のひとつだ。

プリント基板のパターンや部品のリード線に銅箔テープが接触しないように注意するだけで、
あとはコンデンサーに巻くだけだし、結果が芳しくなくても、剥がせば元どおりになるのだから、
試して、どのくらいフラックスが音に影響を与えているのか、確認するのも難しいことではない。

KSA100の出力段のパワートランジスターは、A級動作ゆえ、発熱量はかなり大きい。
ファンを使うことのデメリットはあるが、もちろんメリットもある。
自然空冷よりもシャーシ内の温度は低くできる。
一般に、電子機器のシャーシ内温度が5度高くなれば、故障率は2倍になるという。
あまり温度が低くても、また別の問題が発生するが、
あまりに高温になりすぎて、故障にいたらなくても、
アンプ内部には高温に弱いパーツがいくつもある。これらは確実に劣化の度合いが早まる。

パワーアンプ内で振動発生源として大きいのは、電源トランスと出力段(ヒートシンクを含む)である。
振動をできるだけ発生させないのはもちろんだが、起こった振動の影響からどう逃げるか。
いろんな対処法があるが、熱や電磁波、フラックスと同じく、
出来るだけ距離をとるのは、有効である。

アンプやCDプレーヤー、スピーカーが見た目そのままの大きさではなく、
それらが出している振動や熱、電磁波、フラックスなども考慮することで、
見た目以上のサイズをもつのと同じように、
アンプに使われているパーツも、必ずしも見た目そのままの大きさではない。

パーツ同士の相互干渉をできるだけ取り除くことも、地味だが、大事なことである。

クレルのパワーアンプのパーツレイアウトは、
それらのことが反映されていると、私は捉えている。

もっとも不用意にパーツを離しすぎると、配線が長くなることで、
インダクタンス成分の増加の悪影響が出てくることになる。
私がステレオサウンドに入ったころの、試聴室でリファレンスアンプとして使われていたのは、
マッキントッシュのC29とMC2205の組合せだった。

セレッションのSL6も、最初、この組合せで聴いた(はずだ)。
まだCD登場前だから、プログラムソースはアナログディスクで、
プレーヤーはパイオニア・エクスクルーシヴのP3aと、
カートリッジはオルトフォンのMC20MKIIを使用。

この組合せから出てきた音に、驚いた。
そしてクレルのKMA200と、純正のコントロールアンプPAM2の組合せにつないだときの驚きは、
オーディオで体験した驚きの中で、いまでも強烈な印象を残している。

何がそこまで強烈だったのか。低音の再現力の素晴らしさであった。

JBLの4343BWX(もしくは4344)でも、当然KMA200の音を聴いている。
JBLでの、マッキントッシュとクレルの差よりも、SL6で聴いたほうが違いが素直に出てきた。
低域にその違いがはっきりと出た。

SL6のウーファーは、高分子系の振動板で、ダストキャップのないワンピース構造という特徴はあるが、
口径はわずか15cm。JBLは38cm口径。

にも関わらず、圧倒的な、最低域まで素直に伸びた、量感ある低音を聴かせてくれたのはSL6だった。
アンプを変えたことで、ここまでスピーカーの低域の再現能力が大きく変化するとは、
JBLで、KMA200を聴いた時には想像できなかった。だから驚きは倍加された。

しかも安定した鳴りかたで、まったく不安定さを感じさせない。
こういう低音は、聴いていて気持ちがいい。

そして、クレルのアンプも、サイズについて考えるのに好適の存在である。
LS3/5Aも、価格的に不釣り合いなアンプ、
アナログプレーヤーやCDプレーヤーと組み合わされる例も多い。
相当に高額なアンプで鳴らされている例をネットで見たこともある。

そういう気持ちにさせる一面をLS3/5Aは持っている。
とはいえ、個人的には奢った組合せでも、やはりある程度の節度は保ってこそ、
LS3/5Aの魅力は、より活きてくると感じている。
ここに関しては個人差が、ひときわ大きいように思うけど。

もしLS3/5Aを、自由な組合せで鳴らせるとしたら、まっさきに組み合わせてみたいのは、
スチューダーのパワーアンプA68だ。
瀬川先生の愛機でもあったA68の、アメリカのアンプとはまったく違う音の出しかたが、
LS3/5Aの世界に寄り添ってくれそうな気がするからだ。

すこしでもいい音を出すために、制約をできる限り取り除き、
物量も惜しみなく投入してつくり上げられることの多いアメリカのアンプと比べると、
A68には最初から、ある枠が設けられているかのように、節度ある品の良さを感じさせるし、
それゆえに音楽のもつ情感がひたひたと迫ってくる様は、
いまでも、アメリカのアンプからはなかなか得難い特質のように感じられる。

音の情報量の多さでいえば、現代アンプの方が上であるし、
私も基本的には情報量は多い方がいいと思っているが、
単純に多ければいいというわけでもないと感じている。
情報量と音量は絡み合っているところがあるからだ。

音量の制約があるLS3/5Aには、だからこそA68だと思う。

それにしても、こんなことを書いていると、A68を手に入れたくなってくる。
それもできれば瀬川先生が使われていたA68そのものを。
セレッションのSL6をはじめて聴いたのは、ステレオサウンドの新製品紹介の記事の試聴で、だ。
山中先生に試聴をお願いしていた新製品のいくつか聴いてもらい、最後に鳴らしたのがSL6である。
当時の試聴室のリファレンススピーカーのJBL(4343BWXだったり4344だったりしていた)を
どかした場所に専用スタンドの上に乗せたSL6を設置した。

小型スピーカー・イコール・LS3/5Aの印象が強いころだっただけに、
「この位置で、ほんとうに大丈夫?」と訝りながらも、出てきた音には素直に驚いた。

SL6が登場したときは、まだCDが出ておらずアナログディスクでの試聴なのだが、
ウーファーのフラつきがなく、いささかの不安も感じさせずに安定した低音を響かせる。
LS3/5Aよりもサイズはたしかに大きいが、あきらかに時代の違いが現われている。
とにかく音だけ聴いていると、目の前にあるSL6のサイズを想像できない。

山中先生も興奮されている。
「これで鳴らしてみようよ」と言われた。

さっきまでJBLで聴いていたクレルのモノーラルパワーアンプのKMA200は、
A級動作で200Wの出力をもつ、筐体の大きさはSL6よりも大きい。
価格もSL6がペアで156000円に対し、KMA200はたしか258万円だった。

ここでもう一度驚くことになる。
ロジャースのLS3/5AとセレッションのSL6、どちらもイギリスで誕生した、いわゆる小型スピーカーだが、
LS3/5Aが可搬型モニタースピーカーとして、サイズ自体の設定から開発が始まったのに対し、
SL6は、技術者が求める性能を満たすために必要な仕様として、逆にサイズが割り出されたものであること、
最初から小型スピーカーとして開発が始まったわけではない、という点が、
開発年代の違いとともに、2つを比較すると浮び上がってくる。

セレッションはSL6の開発にあたり、従来の開発手法を用いるのではなく、
技術部長のグラハム・バンクが数年前から取り組んでいたレーザー光線とコンピューターによる
スピーカーの振動モードの動的な解析技術を導入している。

この解析法で、スピーカーユニットの振動板の形状から素材まで徹底して調べ研究することで、
ユニットの口径・構造、システム全体の構成、エンクロージュアの寸法まで決定されている。
SL6は小型スピーカーをつくろうとして生れたきたものではなく、
セレッションが、当時の、持てる技術力で最高のスピーカーをつくろうとした結果のサイズである。
1978年ごろに、テクニクスからコンサイスコンポが登場したとき、
黒田先生がステレオサウンドに、LS3/5Aを組み合わせて楽しまれている記事を書かれている。

キャスター付きのサイドテーブルの上に、LS3/5Aとコンサイスコンポ一式と、
たしか同時期に出ていたLPジャケットサイズのアナログプレーヤーSL10もふくめて
置かれていた写真を、こんなふうに音楽が楽しめたらいいなぁ、と思いながら眺めていた。

コンサイスコンポは、A4サイズのコントロールアンプ、パワーアンプとチューナーがあり、
どれも厚みは5cmくらいだったはず。
パワーアンプはスイッチング電源を採用することで薄さを可能にしていた。

手元にその号がないのでうろ覚えの記憶で書くしかないが、
黒田先生は、気分や音楽のジャンルに応じて、サイドテーブルを近づけたり遠ざけたり、と
メインシステムでは絶対にできない音楽の聴き方をされていた。

コンサイスコンポ・シリーズのスピーカーも発売されていたが、
黒田先生はLS3/5Aと組み合わされていたのが、この、音楽を聴くスタイルにまたフィットしているし、
省スペース・小型スピーカーだからこそ、活きるスタイルだと思う。

セレッションのSL6の登場以降、小型スピーカーの在りかたは大きく変化していったいま、
LS3/5Aに代わるスピーカーがあるだろうか。
左右のスピーカーと自分の関係が正三角形を形造る、いわゆるステレオのスピーカーセッティングを正しく守らないと、このスピーカーの鳴らす世界の価値は半減するかもしれない。そうして聴くと、眼前に広々としたステレオの空間が現出し、その中で楽器や歌手の位置が薄気味悪いほどシャープに定位する。いくらか線は細いが、音の響きの美しさは格別だ。耐入力はそれほど強い方ではない。なるべく良いアンプで鳴らしたい。
     ※
ステレオサウンド 43号に、瀬川先生はLS3/5Aについて、こう書かれていた。

一辺が1m未満の正三角形のセッティングで聴くLS3/5Aの音は、まさにこのままで、
ミニチュアの音像が見えるかのように定位する箱庭的世界は、他のスピーカーでは味わえない。

ただしウーファーのフラつきは絶対に避けるべきで、その意味ではCDになり、
より安定した音が容易に得られるだろう。

井上先生はQUADのパワーアンプ405との組合せを推奨されていた。
405は、あまり知られていないが巧みな低域のコントロールを行なっている。
小出力時はそのままだが、ある程度の出力になると、低域を適度にカットオフしている。
だからこそ、当時の技術で、あのサイズで、100W+100Wの出力を安定して実現できていた面もある。

この性能こそ、LS3/5A向きと言えよう。

私が聴いたなかで、強烈だったのが、GASのThaedra(ティアドラ)で鳴らした音だ。
ティアドラはコントロールアンプだが、ラインアンプの出力は、
8Ω負荷で約数W(うろ覚えだが3Wだったはず)をもつ。しかもA級動作で、だ。
スピーカー端子はないから、RCAプラグにスピーカーケーブルをハンダ付けして聴くことになる。

そこそこの音で鳴るかな、という期待は持っていたが、それを大きく上回る、
新鮮で、楽器固有の艶やかな音色を、過不足なく描写する。
LS3/5Aの線の細さが薄れるのは、人によって魅力がなくなったと感じるかもしれないが、
それ以上の瑞々しさに聴き惚れてしまう。気になるボケが感じられない。

ティアドラのラインアンプの出力は、トランジスターのエミッターからではなく、
コレクターからとり出している。このことも効いているのかもしれない。
LS3/5Aに搭載されているウーファーのKEFのB110は、
1970年代、ステレオサウンドから出ていたハイファイステレオガイドをみると、
スコーカーのページに掲載されていた。
ハイファイステレオガイドは、編集部での校正だけでなく、
国内メーカーや輸入商社に取扱い製品のチェックも依頼しているので、
校正ミスでスコーカーに分類されているわけではない。

スコーカーだが、小口径ウーファーとしてなんとか使えそうな特性も持っているユニットと捉えた方が、
LS3/5Aを理解するうえではいいかもしれない。

アナログディスクがプログラムソースの主役だったころからLS3/5Aを鳴らされている人なら、
LS3/5Aは近距離で聴いてこそ魅力を発揮するスピーカーだと感じとられていると思う。

CDが登場して、サブソニックの発生がなくなったこと、
それにLS3/5Aのネットワークが新型(11Ω)になったことも関係しているのか、
以前にくらべると、ある程度パワーを入れても不安さを感じさせなくなった。

そのためかだろうか、いまどきの小型スピーカーと同じように、
左右、後ろの壁から十分に距離をとり、聴取位置もそれほど近くない設置で聴いて、
短絡的に評価をくだし、ネット(掲示板や自身のサイト)に書いてあるのを読んだことがある。

LS3/5Aが、箱庭的な描写力で聴き手を魅了するのは、
手を伸ばせばLS3/5Aに届くぐらいの近い位置、1m以内の近接位置で聴いてこそ、である。
ほとんどヘッドフォン的な聴き方に近い。
省スペースの意味を含めた小型スピーカーとして、私にとって印象ぶかいのは、
ロジャースのLS3/5Aである。

ご存じのようにLS3/5Aは、BBCのライセンスを受ければ、ロジャース以外のメーカーでも製造できる。
スペンドール、KEF、ハーベス、チャートウェルから出ているが、
最初に聴いたLS3/5Aはロジャース製であり、所有していたのも15Ωタイプのロジャース製であるため、
私にとって、LS3/5Aといえば、ロジャースのそれである。

つい最近ロジャースから復刻版のLS3/5aが出た。なぜだが、型番末尾が、
Aではなく小文字のaに変更されている。
もっともオリジナルのLS3/5Aの表記も、ネットではLS3/5aと表記している例が多いが、
所有されている方ならば、リアバッフルの銘版には、LS3/5Aと記してあるのをみてほしい。

こういう表記のいいかげんなところは、ネットの拡大とともに目につくようになった。
LS3/5Aと同じBBCモニターのLS5/1には、Aがつくのとつかないのがある。
LS5/1が当然オリジナルモデルで、当時、LSナンバーはライセンスされていなかったため、
どこそこのメーカー製ということはない。
日本で知られている、そして瀬川先生の愛機だったのは、改良モデルのLS5/1Aであり、
このモデルからKEFで生産されるようになった。

LS5/1とLS5/1Aの違いは、まずウーファーがプレッシャー製からグッドマンのCB129Bに変更され、
エンクロージュアの内部構造も手を加えられているし、
吸音材の材質、入れ方ともに変更されている。また専用アンプも、メーカーが異る。

KEFではその後、専用アンプをハリソン製のトランジスターアンプに変え、
ネットワークをやめバイアンプ駆動しに、
低域のローブーストとともにレンジ拡大をはかった5/1ACを出している。これにはLSはつかない。

LS5/1(A)は、2基搭載しているトゥイーター(セレッションのHF1300)のうち1基は、
3kHz以上での干渉をおさえるためにロールオフさせている関係で、
高域補正した専用アンプか、それ以外のパワーアンプを使用するならば、
正確な高域補正をして聴くのが当然だ。
SACDプレーヤーが世に登場したばかりのころの、ある機種で、SACDを再生すると、
コントロールアンプと接続しないでも(ケーブル無しでも)、
ボリュームをかなり上げると音楽が聴こえるという現象が起きた。

CDプレーヤーよりも高いクロックを扱うことに、まだ技術が完全に追いついてなかった為、
不要輻射が盛大にプレーヤーから放出され、それをコントロールアンプが拾ってしまったためである。

そのSACDプレーヤーばかりのせいでもなく、コントロールアンプ側にもある。

つねにオーディオ機器は目に見えないもの、
電磁波や地磁気、漏洩フラックス、振動、熱、そういったものにさらされていて、
なんらかの影響を受けている。

こういうと、それぞれの要因が与える影響はほんの微々たるもので、
その程度で電子機器は影響を受けない、ともっともらしいことを言われる人がいる。
たしかにひとつひとつの要因を単独で判断するとそうかもしれない。

けれど実際にはすべての要因がからみあって作用している。
有吉佐和子氏の「複合汚染」を知らないのだろうか。
オーディオ機器も複合汚染にさらされているというのに。
スピーカーはどうだろう。

オーディオ誌で、サイズごとに区分けされ、評価されるのはスピーカーである。
どこまでが小型スピーカーなのか、大型スピーカーはここから、といった明確な区分けはないものの、
なんとなく小型スピーカー特集が組まれたりしている。

見た目が小型スピーカーなら、たしかに設置面積は狭い。だからといって省スペースとはいえない。

小型スピーカーの音質上の大きなメリットである音場感の再現の高さを活かすには、
左右のスピーカーの間に、基本的には何も置いてはならない、と多くの人の共通認識だろう。

しかも左右、後ろの壁からも十分な距離をとる。これらを守って設置したら、
スピーカーまわりは何も置けない空間になってしまう。
スピーカーの設置面積ではなく、設置空間ということを考えると、
小型スピーカーも大型スピーカーも、それほどの差はない。
小型スピーカー・イコール・省スペースとは言えない。

省スペースとは言えなくても、スピーカーは、つねに目につく存在だけに、
視覚的に小型なことは、それだけでも、人によっては大きなメリットであろう。

断っておくが、小型スピーカーには、ならではの音質上の特質があるので、
存在価値は認めている。
オーディオ機器の中でノイズを放出しているモノとなると、
CDプレーヤーに代表されるデジタル機器だろうが、意外にもパワーアンプからの輻射も多い。
スイッチング電源やD級アンプ(デジタルパワーアンプという呼称は不正確)式のモノは当然だが、
昔ながらの純アナログ式(変な言い方だが)のパワーアンプでもそうである。
特にヒートシンクが筐体の外に取りつけてあるものは注意したい。

ノイズの影響から逃げるには、距離をとるのがベストだと書いたが、
ノイズ輻射の多いオーディオ機器や、外来のイズの影響を受けやすいオーディオ機器を使っているとしよう。

それらをノイズの影響を受けないように設置しようとすると、意外にも十分なスペースを必要とする。
ちいさなサイズの機器でも、ノイズ輻射の多いものならば、近くに他の機器を設置できない。
多少筐体は大きくても、それがノイズ輻射を減らすため、
もしくは外来のイズの影響を受けないためのものだとしたら、設置条件はかなり自由である。

オーディオ機器のサイズは見た目だけで判断しがちだが、
目に見えないノイズのことを考慮したうえで、サイズを捉えなおすと、
決して外形寸法通りではないことに気づかれるだろう。

サイズを捉えなおす上で見落としてならないのはノイズだけではない。
振動を発生するもの、その影響を受けやすいもの、
漏洩フラックスの多いもの、その影響を受けやすいもの、
発熱の大きいもの、などがある。
CSEが、1990年ごろ発売していたMODE L93-94 EMI NOISE CHECKERは、
1台手元にあると便利な簡易計測器である。

型番のとおり、ノイズチェッカーである。
メーターや数値でノイズを表示する計測器はいくつか市販されているが、
高周波ノイズを音に変換するモノとなると、このぐらいしかないと思う。

メーター式のもので十分じゃないか、と思う人もいると思う。
でも、実際にCSEのノイズチェッカーを試してみると、
ノイズの質(たち)の違いが音の違いとなって、すぐにわかる。

連続するノイズでも、ジャーなのか、シャーなのか、ジージーと波打つ感じなのか、
断続的なノイズでも、ボッボッ、プチップチッだったり、じつにさまざまで、
思わぬものが意外にノイズをかなり出していることもわかる。

ノイズの影響を避けるにはどうしたらいいのか。
シールドを厳重にしたり、電波吸収材を使ったりする前に、いちばん確実で有効な手段は、
ノイズ源から十分な距離をとることである。
お金も必要としないし、シールドすることによる音質への影響も関係ない。
オーディオ機器のサイズの定義は、あるようでない、と言えよう。

スピーカー・ユニットの口径ひとつとっても、何cm以上が大口径なのか、小口径は何cn以下なのか、
まったく決っていない。ただ感覚的に、38cm口径は大口径と言っている。

たしかに10cm口径のユニットと比較すると38cmは大口径と言えるが、比べてみての話だ。
エレクトロボイスが以前出していた76cm口径のウーファー、30Wや
ダイヤトーンが市販したことのある160cmのウーファーと比べると、
38cmも小口径と言わないが、大口径とは言えない。

定義が決ってないので、ふだん見慣れているモノのサイズよりも大きければ、大口径、大型となる。
ということはオーディオに関心のない人にとっては、20cm口径のユニットでも、
相当大きなスピーカーと感じるかもしれないし、
同じオーディオマニア同士でも、世代が違えば、サイズに対する感覚も異っているだろう。

60年代のスピーカーは、ウーファーといえば38cm(15インチ)がスタンダードだと言えよう。
この時代のスピーカーに馴染んでいる人と、90年代以降のスピーカーに馴染んでいる人とでは、
サイズ感覚もずいぶん違うだろう。それに住環境も無視できない。

そしてオーディオ機器のサイズは、見た目だけではない。

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