JC2の最近のブログ記事
カートリッジが、レコード盤から音を拾ってくる。
機械的な音溝を、電気的な信号に変換する。
優秀なプレーヤーシステムを、見事に調整していれば、驚くほどの音を拾いあげる。
その拾いあげられた音を、
つまり音溝という形で眠っていた音を、完全に目覚めさせるのはコントロールアンプの役割なのかもしれない。
感覚的な表現でいえば、寝起きの乾いた体に新鮮な水を飲むのと同じように、
水を浸透させ目覚めさせるといった具合に。
コントロールアンプによっては、その水の量が足りないものがある。
水そのものが澱んでいるものもある。
細部まで水が浸透しないものもある。
軟水もあれば硬水もある。
マークレビンソンのLNP2やJC2は、硬水を音の細部にまで浸透させ、音が目覚める。
LNP2のフォノアンプには、このようなキメ細かい対応は用意されていない。
両機種のブロックダイアグラムやこれらのこと、
さらにLNP2は信号系のモジュールはすべて共通だが、
JC2はフォノアンプとラインアンプのモジュールは回路構成からして異なることなどを
比較してはっきりしてくるのは、
JC2はアナログディスク再生に、LNP2はライン入力に主眼がおかれていることだ。
JC2の、この構成は、のちにディネッセンのJC80を生むことにつながっていく。
そしてJC2のもつ可能性が本領発揮となるには、ML6までの時間を必要とした。
JC2は未完の大器的色あいが濃い。
このことは別項「Mark Levinsonというブランドの特異性」で書く予定だが、
もう少し先、というかかなり先になりそう。
実は、この項は2回で終るつもりだったのが書いているうちに(その12)になってしまった。
ML6のことも書き始めると、かなり長くなりそうな気がする......。
LNP2のモジュールの数は通常で、VU駆動用のものを含めて8つ、オプションのパッファーを加えると10。
JC2とはいうと、フォノアンプ、ラインアンプのモジュールがそれぞれ2つずつ、
それにフォノアンプ・モジュール用の専用の電源モジュールの計5つ。
オプションとして、ヘッドアンプのJC1のモジュールタイプ(JC1SM)を、
フォノアンプ・モジュールの間に組み込めるようになっている。
フォノアンプ・モジュールはフロントパネル寄りにあり、モジュールとリアパネルのあいだに、
RIAAイコライザー用のカードが挿さっている。
コンデンサー、抵抗から構成されている。このカードが、フォノアンプのNFB素子となる。
このカードを交換することで、JC2のフォノアンプは、A3、D5、D6システムへとなる。
2148以前のJC2はどうなっていたかというと、ABCDEFの6つのシステムが用意されていた。
JC2のINSTRUCTION MANUAL には、こうある。
A System
Two UP-1A cards are normally supplied with the JC-2 unless otherwise specified. This system accepts Input impedance: 47kOhms.
B System
The UP-1B system offers lower sensitivity but increased headroom for the highest output magnetic phono cartridges.
C System
This set provides exact equalization for the Brüel & Kjaer series of cartridge measurement records. Information on request.
D System
This system includes two UP-1D cards and a JC-1SM module. It offers DIRECT moving coil cartridge input.
E System
Provides equalization and DC current source for certain gauge cartridges. Information on request.
F System
Flat response amplification. Specify application and requirements.
レヴィンソンがスイスに渡ったときに、トーレンスのベルトドライブ機をベースにしたEMTの928の存在を知ったのか、
それ以前に知っていたのか、どうかは判断しようがないが、
ほとんどなんの根拠もない推測(妄想にちかい)だが、928を使っていたのではないかと思えてくる。
927Dst、930stのイメージと若き日のレヴィンソン自身のイメージがうまく結びつかないのと、
928ならば、なんとなくレヴィンソンが使っていても不思議ではないという気がするというだけなのだが......。
もしそうだとしたら、JC2のREMOTE PHONOの説明がつく。
電源がPLS150への変更による強化、入出力端子がRCA端子からCAMAC規格のLEMO端子になったときに、
シリアルナンバー2148番からのJC2(日本での型番はJC2L)にはREMOTE PHONO端子はない。
かわりにPHONO入力が2系統に増えている。
さらに内部も変更が加えられ、フォノカードに、A3、D5、D6の3種類が用意されるようになった。
A3が、いわゆる通常のフォノ入力で、MM型カートリッジもしくは昇圧トランス、ヘッドアンプ用。
D5、D6はMC型カートリッジ用で、D5カードの説明には、
System D5 offers 54 and 60dB gain positions. 54dB is recommended as the optimum for the EMT cartridge. The gain setting will yield an incredible signal to noise ratio without overloading for EMT.
と記されている。
D5カードがゲインを54、60dBに切り換えられるように、A3カードも、30、40dBと切換え可能だ。
こちらの説明は次のとおり。
Certain high output moving coil cartridges such as the EMT, the Supex 901, the Satin, and the Ultimo, may be used in more efficient systems with the 40dB gain implemented.
少なくともEMTのカートリッジは使っていたのだろう。
マークレビンソンのアンプ、LNP2LにしろML2Lにしろ、共通しているのは、
全体に贅肉を感じさせることのない、硬質に磨き上げられた美が、
過敏なまでに音楽の微妙な表情までも、くっきりと浮き立たせることだ。
さらにML2Lが特に顕著といえるが、低域はソリッドに引き締り、音の緻密さにおいて、
当時マークレビンソンのアンプに匹敵するアンプは、まず見あたらなかった。
マーク・レヴィンソンの繊細な神経によって、過剰なまでに磨き上げられた音を聴いた後では、
他のアンプだと、それがいいことは悪いことは別として、なにかものたりなさを感じてしまう。
だからこそ、マークレビンソンのアンプに対する好き嫌いは、はっきりしていた。
瀬川先生のように惚れ込まれる人もいれば、
黒田先生はナルシシズムを、そこに感じておられたようだし、
神経質過ぎると敬遠する人も少なくない。
LNP2L、ML2L、JC2は、やはり過激なアンプだ。
だから、惚れ込む者は、どこかしら青臭いところが残っているのかもしれない。
私がステレオサウンドを読みはじめたのは、1976年12月に出た41号と、
別冊の「コンポーネントの世界 '77」だ。
どちらを読んでも、LNP2の評価は、特に瀬川先生の評価は高かった。
41号では、JC2と比較して、
「音楽の表現力の幅と深さでLNPはやはり価格が倍だけのことはあると思う」と書かれている。
「コンポーネントの世界 '77」でも、瀬川先生の組合せにLNP2は登場しているが、JC2の出番はなし。
くり返し、この2冊に読み耽っていた中学2年の私は、
マーク・レヴィンソンが自家用として使っているのは、LNP2だと思い込んでいた。
ところが数号後のステレオサウンドには、JC2(ML1L)をメインとして使っている、と出ていた。
頭が混乱したのを憶えている。
「えっ、なぜ? レヴィンソンは社長だから、いちばんいいモノを使っているはず。
だからLNP2でしょ? なぜJC2なのだろう......」
このときは、まだLNP2もJC2も、まだ聴いていなかった。
だからステレオサウンドの記事だけが頼りだった。
JC2はML1Lになり、純度を高めてML6L(シルバーパネル)へと到る。
たしかに、レヴィンソンが使っていたのはJC2(ML1L)だったのだろう。
だとすれば、レヴィンソン自身にとって、LNP2の存在はなんだったのか、と考え込む......。
JC2 (ML1L) の左右独立のレベルコントロール(バランスコントロール)も、
ラインアンプのNFB量を、1dBステップで変化させている。
±5dBの変化幅だから、NFB量は最大で10dB違うわけだ。
だから、どのポジション、つまりNFB量を減らすか増やすかによって、音の出方が変化する。
どのポジションで使うかは、その人次第だが、いずれにしても、
0dBのポジション以外で使うとなると、ツマミが斜めになる。
これが嫌で、JC2を使っていた時、実は+5dBにしていたが、ツマミは垂直になるようにしていた。
他の人からすれば、どうでもいいこだわりなのだが、
中央ふたつのツマミは、垂直になっていたほうが、キチッとした感じがして、見ていて気持ちいい。
ジョン・カールの設計思想として、それほどゲインを必要としない場合には、
差動回路を使っても初段のみである。
差動2段回路のJC2のフォノアンプは、ジョン・カール設計のアンプとしてはめずらしい。
JC2のフォノイコライザーはNF型イコライザーである。
RIAAカーブをNFBでつくり出している。そのためNFBループにコンデンサーが2つ使われている。
NFBがかけられているアンプはすべてそうだが、
次段のアンプの入力インピーダンスとともにNFBループ内の素子も負荷となる。
つまりNF型イコライザーアンプの負荷は容量性であり、
当然周波数の上昇とともにインピーダンスは低下していく。
それに対し安定した動作を確保するため、
JC2のフォノアンプの出力段はパラレルプッシュプル仕様となっているのだろう。
差動2段増幅になっているのも、このNF型イコライザーと関係している。
RIAAカーブは、1kHzを基準とすると、20Hzは+20dB、20kHzは−20dBのレベル差がある。
20Hzと20kHzのレベル差は40dBである。
20kHzのゲインを0dBとしても、20Hzでは最低でも40dBのゲイン(増幅率)は必要となる。
まして20kHzでゲイン0dBということはあり得ないから、
NFBをかける前のゲイン(オープンループゲイン)は、ある程度の高さが求められる。
ゲインの余裕がなければ、低域に十分なNFBがかけられなくなる。
十分なゲインを稼ぐための、差動2段増幅と考えていいだろう。
マークレビンソンのLNP2のモジュールLD2の回路構成はどうなっているのか。
ジョン・カールにインタビューした時に聞いておけばよかった、と後悔しているが、
取材の目的はヴェンデッタリサーチについてだったので、仕方なかった。
私が持っているジョン・カールが設計したアンプの回路図は、
マークレビンソンのJC2、JC3、ディネッセンのJC80、
あとは自分で実物をみながら回路図をおこしたヴェンデッタリサーチのSCP1だけである。
このなかで、LNP2の回路を推測する上で、重要なのはJC2以外にないだろう。
LNP2はフォノアンプ、インプットアンプ、アウトプットアンプのすべてに
共通のモジュールLD2が使われているのに対し、
JC2は、フォノアンプとラインアンプは、モジュールの大きさも異るし、当然回路構成も大きく違う。
JC2のラインアンプは、初段のみ差動増幅の上下対称回路(2段増幅)、
JC3の電圧増幅部とほぼ同じといってよい。
フォノアンプは、上下対称回路ではなく、2段差同増幅回路になっている。
初段の差動回路の共通ソースには定電流回路が設けられ、
2段目の差動回路はカレントミラー負荷になっている。
出力段はFETによるプッシュプル回路で、しかもパラレル仕様である。
使用トランジスター数は、ラインアンプが6石(内FET4石)、フォノアンプは11石(内FET7石)となっている。
「人間の死にざま」(新潮社)に所収されている「音と悪妻」で、
このところ実は今迄のマッキントッシュMC275の他に、関西のカンノ製作所の特製になる300B-M管一本を使ったメイン・アンプを併用している。これは出力わずか8ワットという代物である。さすがに低域はマッキンの豊饒さに及ばぬが、だが、何という高音の美しさ、音像の鮮明さ、ハーモニイの味の良さ......昔の愛好家がこの真空管に随喜したのもことわり哉と、私は感懐を新たにし、マッキンよりも近頃は8ワットのカンノ・アンプで聴く機会が多い。
と書かれ、組み合わされているコントロールアンプについて、「ベートーヴェンと雷」のなかで、
マークレビンソンのJC2だとされている。
念のため、関西の、と書かれているが、正しくは、小倉の、である。
カンノ・アンプをお使いだったことは、以前から知っていた。
コントロールアンプはマッキントッシュのC22かマランツの#7のどちらかで、おそらく#7かな、と思っていただけに、
JC2の文字を見た時は、驚きよりもうれしさのほうが大きかった。
実は、私もJC2を使っていたからだ。
1987年だったか、とある輸入商社の方にお願いして、アメリカから取り寄せてもらった。
しかもジョン・カールによってアップグレードされたJC2だった。
しかもJC1が搭載されているものだった(「人間の死にざま」を手に入れたのは2000年ごろ)。
ツマミは、初期の、細くて長いタイプ。
見た目のバランスは、途中から変更になった、径が太くなり、短くなったツマミの方がいいのはわかっているけど、
JC2の、あの時代のアンプの中で、ひときわとんがっていた音にぴったりなのは、やっぱり細いツマミだからだ。
五味先生のJC2がどちらなのかは、写真で見たわけではないのでわからない。
けれど、きっと初期のモノだと、確信している。
LNP2用のモジュールの設計には、ひとつの大きな制約があった。消費電力である。
LNP2には片チャンネル当り6つの信号用モジュールとVUメーター駆動用モジュールが1つ、
左右両チャンネルで8つのモジュールを搭載している。
さらに、バッファーアンプ用にモジュールを追加できるように、最初からそうなっている。
瀬川先生は、信号が通過するアンプモジュールは増えることになるが、
バッファーアンプを追加したほうが、音の表情の幅と深さが増すと書かれていた。
実際、瀬川先生が愛用されていたLNP2は、バッファー用とモジュールが追加されていたし、
ステレオサウンドに常備されていたLNP2も、そうだった。
1977年に、入出力コネクターが、一般的なRCAジャックからCAMAC規格のLEMOコネクターに変更されたとき、
外付け電源も大きく変更され、電源にもPLS150という型番がつけられるようになった。
それまでは、そんなに立派な仕様ではなく、汎用性といった感じのモノが付いていた。
もともとの付属電源の容量が、実はそれほど余裕があるわけでなく、
しかもLNP2は最大10個のモジュールを搭載する。
OPアンプ中心の回路構成で消費電力も低かったバウエン製モジュールでは、
それでも問題は生じなかった。
けれど、74年に登場した、ジョン・カール設計のJC2搭載のモジュールを、
そのままLNP2には消費電力の面で、搭載は無理だった。
ディスクリート構成のモジュールを、
OPアンプ中心のバウエン製モジュールと変わらぬ消費電力で実現しなければならない。
このことに、苦労させられたと、ジョン・カールは語ってくれた。
そのことを裏づけるかのように、JC2のモジュールには、Class Aという表記がある。
LNP2のモジュールには、そういう表記はない。
